ボーダー所属の同い年、いつもの連中と飲んでた時、の話題を出された。何もないと言いつつ、酔いも手伝い顔に出ていたらしい。まるで犯罪者を見るような目に腹が立ったが、もうこの際開き直るしかなくて、向こうだって俺のことが好きだ、と言い張って電話をかけることになった。すぐ電話に出てくれたことに安堵したが、こんな時間なのにまだ本部にいると聞いて、どきりとした。佐鳥がに振られたなんて冗談を言っていたのを聞いてしまったせいか、男といるのではないかなんて不安になった。一人だと聞いて安心したが、あの夜道を一人で帰すわけにはいかないだろうと、迎えに行く約束をこじつけて電話を切った。当初の目的を全然果たせてない上、まだ続くだろうこの会を抜けることにしてしまっていた。
「悪い。抜けるわ」
「ちゃんとはっきりさせて来い」
何をだ、と言い返そうとして飲み込んだ。曖昧なままにして、もやもやしているのは性に合わない。それは自分がよくわかっている。普段はうるさいヤジも全部味方につけて、のところへ向かうことにした。
思っていたよりボーダー本部と離れて合流になったせいか、もっとゆっくり出てくればいいものを、と会うなり文句を言われてしまった。それでも優しい顔をした諏訪さんは、酔っているだけなのか私にはわからない。生身の煙草臭い諏訪さんは、現実味があった。
「帰るぞ」
「はい」
「何をそんなに嬉しそうなんだよ」
そう言って諏訪さんは私の頬をつまんだ。暗いからばれないかとにやけた顔をそのままにしたせいだ。ボーダー本部内では我慢していたことも、今は外で二人きりだし、ちょっとくらいと思う気持ちもあった。隠さなきゃ、よりも隠したくないが、最近強くなってきてしまっている。これはもうどうにもコントロールが難しい。
「諏訪さんがわざわざきて送ってくれるから、嬉しいです」
「つままれてるのにかわいい顔すんな」
罪悪感がわく、と、手を離される。かわいいなんて、初めて言われた。酔っている姿を見るのは初めてじゃない。でもこんなに隙だらけの諏訪さんは初めてだ。いつだって私の前では強くて大人で、手の届かない人だったのに。
「諏訪さん」
「なんだ」
「好きです」
自分の中ではごく自然のことだった。何も考えずに、今言った言葉を後悔することもない。巡り巡ってやってきたタイミングのような気さえした。
「お前なあ、今言うかそれ」
「え……」
呆れたように息を吐きだす諏訪さんに戸惑いを隠せなかった。優しく笑って受け入れてくれるものだと思っていた。付き合う付き合わないは置いておいて、私の気持ちは大事に受け取ってくれる気がしていたけど、どうやらそれは勘違いらしい。
今日は断りをいれることなく煙草に火をつけた。それをただぼーっと見ている。わかっているけど、わかってなかった。どこかで優しくされるのを期待していた。かわいい弟子だと、訓練をやめた今でも思っていて欲しかった。突き放さないでくれると信じていた。でも突き放さない理由だってないし、もう関わらないように生きようとしたら関わらないで生きることだってできる。私みたいなガキは面倒だと、今も思っていたのかもしれない。勝手に浮かれて馬鹿みたいだ。
「こっちから言うつもりだったのに、まさかな」
今にも涙がこみ上げそうになっていたのを必死に止めようとしていたのに、その一言で、やっぱり涙は目からあふれて落ちた。照れ臭そうに笑う諏訪さんの微笑みは、とてもやさしかった。