あの後、こっそりついて来ていたらしい風間さんたちに私が泣いているのを見つかってしまって、諏訪さんが何かしたのではと疑われ、思ってた雰囲気ではなくなってしまった。諏訪さんが私に好きだと言おうとしてた、そう思ったら自然と涙がこみ上げたし、幸せって胸が苦しいって言うのは本当だったのか、なんて思っていたと言うのに。そのあとは酔っ払った大人組のみんなと警戒区域を抜けて、家まで送ってもらった。
 すぐに涙も引っ込んだし、みんなと楽しく帰った。でも、一人になってからふと、諏訪さんとのことは一体どうなったのかわからないままだと気が付いた。好きだと言ったし、諏訪さんも同じ気持ちの様だった。でもちゃんと言ってくれた訳じゃないし、自分だけ気持ちを打ち明けてしまって、次会う時にはどんな顔をしたらいいと言うのだ。
「おう」
「え、諏訪さんどうしたんですか?」
 学校帰りのボーダー本部への道。途中で急に現れた諏訪さんにびっくりして挨拶もできなかった。なんでこんなところに急に出てくるんだ。心の準備が、何もできてない。油断しているところに現れないで欲しい。
「ちょうど暇だったんだよ。ほら、行くぞ」
 こんな諏訪さん見たことない。やっぱり私なんかが知らない諏訪さんはきっとまだまだある。でもそれをちょっとずつ見せてくれるのが、たまらなく嬉しい。
「今日任務はないんですか?」
「ねーよ」
「そういえば笹森くん、一緒に行くと思ってたのに、用事があるってまだ学校残ってたな。待ってたら来るんじゃないですか?」
「来なくていいんだよ」
「え?」
「この前の話、途中で終わっただろ。だから迎え来たっつーのにお前は」
 この前の話、そうい言われて一気に顔に熱がこもる。平気ぶって世間話をしている場合じゃない。それにもう好きだと言ってしまったんだ。好きを隠す必要だってもう、ないのに。
「こっち来い」
 手を引かれて、大通りをそれる。通ったことのない、お店も少ない道。生身の諏訪さんが私の手を握ったのは、これが初めて。熱くて、ドキドキする。
「諏訪さん」
「何だよ」
「好きです」
「お前なあ」
 諏訪さんが立ち止まるから一緒に止まる。この前と同じ展開。でも今は不安じゃない。またあきれ顔をされたけど、好きだと思ってしまうんだから仕方ない。諏訪さんの彼女になれたら、きっと幸せだろうな。
「俺がもっと早く言えばよかったんだろうけど、若いくせにムードもへったくれもない時に言うな」
「何か考えてくれてたんですか?」
「何もねーけど今じゃねーだろ確実に」
「そんなのわかんないです」
「わかんねーだろうな、お前には」
 そう言ってぐしゃぐしゃと両手で頭を撫でられた。繋がれた手が離れて寂しいし、髪の毛めちゃくちゃにされて嫌なのに、嬉しい。もう感情が渋滞してよくわからない。
「好きだ」
「……」
「なんか言えよ」
「嬉しいです」
 また泣いてしまったら困るから目をぎゅっと閉じた。近くで「かわいい」と聞こえたと思ったらキスをされた。ああ、告白にムードとかは全然考えてなかったけど、ファーストキスはもっといろいろ考えたりしたのに。髪の毛も乱されてこんな辺鄙な場所でなんて想像もしてなかった。けど、大好きな人とできたからそれもどうでもいいかな。
「あんまり男どもと仲良くすんなよ」
「してないです」
「……佐鳥がお前に振られたって言ってたぞ」
「それは、話の流れの冗談です」
「そうだろうけど、いい気しねー」
 髪の毛を手櫛で直しながら、歩き始めた諏訪さんの後ろをついて歩く。信じられないような状況も、諏訪さんの発言で、どんどん現実味を帯びていく。本当のことなんだ、そう実感するたびに嬉しいと踊り出したい気持ちだ。
 好きになることを無理にやめなくてよかった。でもあの頃の私が諏訪さんにアタックしたとしても、今こんな関係にはなっていないと思う。全部無駄じゃない。と言うか幸せすぎて、そんなことどうだっていい。今までだって楽しくなかったわけじゃないけど、これからきっともっと楽しいと思ったら、わくわくが止まらなかった。