諏訪さんと二人きりの時は、いつもよりもやさしいと思う。昨日の帰り道もそうだ。受け答えとか、表情とか、少しだけどあたたかみが増す。好きだから勘違いをしまくっている可能性は否定できないけれど、諏訪さんの方だって、私の事を少しは意識することがあるかもしれない。諦めることが難しくて、つい、いい方へと思考を巡らせてしまう。好きにならなくなる方法、全然わからない。他の男の子をいいって思えない。そもそも、諏訪さんをいい男だと胸を張っては言えない。おじさんだし煙草吸うしお酒好きだし、口も悪い。なんで好きになっちゃったんだろうと悩んだことも数えきれないくらいある。でも好きになってしまったんだ。訓練の時にできないでへこたれてる私に、一生懸命アドバイスをくれたり、真面目に練習したことをきちんと褒めてくれたりするし、危ないことは注意してくれるし、できたときは一緒に喜んでくれた。気付いた時には、思っていた以上に、好きだった。
もう今までもさんざん迷惑をかけてきたんだから、今更迷惑をかけると気にする必要なんてないかな。好きだと言ってしまえば、もうこれ以上期待したり悩んだりしなくなるのだろうか。
任務が思っていたよりも遅くなってしまって、外はすっかり暗い。こんな時間じゃ帰った人も多いし友達は捕まりそうもない。知らない人でもいいから誰かが帰るのにくっついて歩きたいけど、こんな日に限って誰もいない。警戒区域は足元も悪いし、暗いとそういった意味もあって心細く感じる。いつも遅くなる時間は誰かしらいるから、完全に一人のことは珍しい。任務のあと、すぐに帰ればよかった。後悔していたら電話が鳴った。相手は諏訪さんで、びっくりして通話ボタンを間違えて押した。間違えてはいないけど、深呼吸の一回くらいはしたかった。
「お疲れ様です」
「おう、おつかれ。今大丈夫か?」
諏訪さんの後ろはなんとなくがやがやしていたけど、声ははっきり耳に届いた。こんな時間に何の用事だろうか。もしかしてまだ本部にいるのかな、いや、後ろの音的には本部ではない。
「大丈夫です。今、任務が終わって本部から帰るところです」
「誰かと一緒か?」
「一人ですけど」
「こんな時間に危ねえだろ。帰るの待ってろ」
「え、諏訪さんはどこにいるんですか? 本部にいないですよね?」
聞いたら街中の居酒屋さんで飲んでいるらしい。でも来てくれるらしい。よくわからない。酔っ払っているからか。嬉しいけど、素直に喜んでいいのかわからない。
「五分くらいしたら本部出てこい。すぐ合流する」
「わかりました」
帰り道はよく一緒に通る一本道だ。本部に来てしまうと知り合いが多いだろうから、ここまで来るのはちょっとめんどくさいのだろうか。なんだか秘密の関係っぽくて、ドキドキしてしまう。
諏訪さんからこんな風に連絡が来たのは初めてだった。訓練を見てもらっていた時は、明日いますかとか今日こいとか、そんな連絡を取り合っていたけど、最近はもう、ずっと連絡なんてとってなかった。本部の中でばったり会うか、笹森くんを通じて諏訪隊にお邪魔するくらいで、私達の関係はどんどん希薄になり、忘れる努力を始めなきゃいけなかった。
五分経ったら、本部を出て諏訪さんに会える。そう思えば少し体温は上がったし、夜道も心細くなんてない。好きじゃなくなるなんて、私には難しすぎる。