「ひさとに彼女出来たらどうする?」
「どうするも何もないだろ」
「お祝いしなきゃな」
に彼氏できてなくてよかったね」
 二人が訓練室に入ったあと、椅子に座ってが持ってきてくれたと言ったシュークリームをかじっていたら小佐野が急にそう言って、むせた。
「どういうことだよ」
「日佐人の勘違いと言うか、単なる噂だったってさっき言ってましたよ」
「遊びに来なくなったの、諏訪さんが変なことしたとかじゃないんでしょ?」
「オレが見てる範囲ではそんなことはなかったが」
「何だその目は! 何もしてねーよ!」
 強くなって、これからはきっと他の技だって覚えたいだろうし、他の連中とも仲良くやっているようだからうちの隊だけ特別に思わなくなっただけだろう。けれど遊びに来なくなった理由が、彼氏ができたからじゃないと知って、少し安心している自分に戸惑った。

 用事がなかったから、と一緒に帰ることになった。小佐野は小南が珍しくくるから待ってると言い、日佐人は個人ランク戦に行ってくると言った。堤も帰ると思ったのに、明日までのレポート終わらせてから帰るとか言うので、結局二人きりになってしまった。今までもこういうことはあったと思う。別に意識することじゃない。それなのに、今日はいつもと違う。久しぶりに会ったからだろうか。
「笹森くんは、クラスの子とは付き合わないと思います」
「言い出したのお前だろ」
「それはあっちが先に言ったから」
「で、お前はどーなんだよ、彼氏」
「どうなんですかね」
 そもそもコイツは俺が彼氏ができたと思っていたことは知っているのだろうか。さっき話題にはなったけど、彼氏がいないと言ったのは俺がいないところでの話だ。俺が勘違いしっぱなしだと思っていたりするのだろうか。の受け答えに正解が見当たらなくて困る。だからどうしたって話だけれども。
「付き合うなら、ちゃんと好きな人がいいですよね」
「そらそうだろう」
 十六の女が純粋でいる為に肯定の相槌を打つ。男は別に好きじゃなくても、ちょっとかわいいとかおっぱいがでかいとかで付き合える奴は多いし、好きって言われたらまあ嫌いじゃないし付き合うかと思うこともある。大人になれば割り切った付き合いだって存在する。俺たちの間にある五年は、小学生のそれとはまた違う、恋愛観に影響するだろう五年だ。同世代と、いわゆる普通と言われる恋をして、恋人を作って、いろんな経験をする方がずっといい。そう思うのに、自分が普通に入らないことにもやもやが止まらない。
「……タバコ吸うけど、嫌だったら離れて歩け」
「灰皿持ってるんですか?」
「あるよ」
 街中では吸える場所も限られてる。警戒区域の喫煙もよしとはされていないだろうけど、ボーダーの監視カメラに映るくらいで誰かに文句を言われたこともない。煙草に火をつける間、先に行けばいいのに律義に隣にいる少女をやっぱりかわいく思う自分がいて、そろそろ気付かない振りも限界かなと思う。