「久しぶりー」
「ご無沙汰してました」
「そんな改まらなくていいのに。散らかってるけどどうぞ」
ちょっと緊張してたけど、小佐野さんが出迎えてくれてすぐに安心感に包まれた。一緒に食べようと思って買ってきたシュークリームを手渡して、笹森君にこれを食べたら自主練しようよと誘う。久しぶりだけどいつもっぽい。諏訪さんはちょうどいなくて、それもあったかもしれない。
「最近遊びに来なくてつまんなかったんだよ」
「すみません」
「で、彼氏、できたの?」
楽しそうに顔を覗き込まれるが、そんな事実はない。噂の発端は笹森君だろうと気付いて視線を向けるが、笹森君も本当のところはどうなのかと言った真面目な顔をしている。堤さんは相変わらずやさしく微笑んでくれるけど、助けてくれそうにない。
「彼氏できてません! みんなに言われるんですけど違います。嘘ですそれ」
「えー、なんだつまんない」
「つまんないってことはないだろ」
「笹森君でしょみんなに言ったの」
「俺は学校で聞いたからここでちょっと言っただけで、言いふらしたりはしてないよ」
「ほんとかなあ」
諏訪さんがいなくて助かった。いやどうなんだろうか。もしかして、この噂って諏訪さんも知っているのだろうか。でも笹森君に今諏訪さんも今の知ってる? って聞いたら諏訪さんのことを諦めきれていないのがばれる。それはとてもまずいし、なんならここに来なくなった理由も一緒にばれてしまう。
「はそのクラスの男の子は好きじゃないの? 他に好きな男の子がいるの?」
「おサノ先輩ぐいぐいいきますね」
「ひさとは? どう? おすすめ!」
「笹森君は友達です。強いしやさしいし、いい彼女ができそうって思いますよ」
「がひさとと付き合ったらきっと楽しいのになー」
「それはおサノが楽しいだけだろう。あんまり後輩たちを困らせるな」
「えー、つつみんだってそう思うでしょう?」
自分の本心がバレていないことに安堵して、シュークリームをかじる。きっとおサノ先輩からしても、諏訪さんて恋愛対象外なんだろうな。同じ隊だから余計なのかもだけど、だから私が諏訪さんを好きな気持ちが恋愛感情だとは思ってなさそう。ありがたいけど、違うんだともいいたくなって、ちょっともやもやした。
「笹森君の方こそクラスの女の子といい感じだよね」
よくしゃべっている女の子の名前を口にしたら、一気に赤くなって、みんなの目が変わる。悪いとは思うけど、先に私のことを告げ口したのはそっちなのだからこれくらいは我慢して欲しい。
「何それ聞いてない!」
「なんもないんで言う必要もないんです」
「その照れ方はなんかあるだろ」
三人が盛り上がっていると、ちょうど諏訪さんが帰ってきた。思わず振り向いて目が合ってしまって、ドキドキした。
「あ、諏訪さんお帰りなさい」
「お邪魔してます」
「おう」
「諏訪さん聞いて! ひさとがクラスにいい感じの女の子がいるって」
違う違うと一生懸命笹森君が言っていても諏訪さんが説明しろと言うと仕方なく、ただ仲がいいだけだと言い訳をした。笹森君を使って逃げておいて申し訳ないが、正直笹森君が好きっていうよりも、女の子がちょっと好きって感じを出しているのではないかと思っている。笹森君は今は女の子よりもボーダーのが優先って感じもするし。
「、自主練するんじゃなかったっけ」
「うん、する」
助けてと言わんばかりの顔でそう言われたら助けるしかない。笹森君にはいつも助けてもらっているし。