「諏訪さん、なんだか久しぶりですね」
「そうだな」
 本部に向かう途中、偶然学校帰りの制服姿のに会った。コイツも本部に向かう途中らしい。セーラー服の眩しさに目を細めたくもなる。今まで保護者の気持ちだと思うことは何度もあったけど、その短いスカートを長くした方がいいとも思わないから、やっぱりこいつのことを女として見ているんだと知って心が痛む。ボーダー内の奴に下心なんて持ちたくはなかったし、持つと思ってもいなかった。彼氏ができて色気が増したんだろうか、なんて馬鹿なことを考えてすぐやめた。
「調子はどうだよ」
「まあまあですかね。あ、この前初めて犬飼さんから一本とれたんですよ!」
「そりゃすごいな」
「ですよね! まぐれでもみんな褒めてくれて、気持ちよかったなあ。そのあとボコボコにされましたけど」
 久しぶりに二人でしゃべっているけれど、はいつも通りだった。変に落ち着かないでいるのが自分だけだと思うと恥ずかしい。
「そう言えば、隊の奴らが会いたがってたぞ。たまには遊びに来いよ」
「本当ですか? 嬉しい。今度行きます」
「おう。来い来い」
「……諏訪さんも、私に会いたかったですか?」
「は? なんだよ急に」
「あ、なんでもないです。すいません変なこと言って」
 あはははと、誤魔化すように笑う顔がかわいくて、これはちょっとまずいのでは、と思ったが、彼氏がいるって話だ。おちょくられてるだけと思い直し、少し早くなった鼓動も知らんぷりをした。


 諏訪さんと一緒にボーダー本部まで歩いて、そのあとはそれぞれの目的地へ分かれた。人気の少ない廊下の壁にもたれて深呼吸をひとつ。諏訪さんに会うのは一週間ぶりくらいだった。二人きりで話をしたのはきっと三週間ぶりくらい。普通にできてたと思う。なのに欲が出て、ついいらないことを聞いた。諏訪さんの反応はびっくりしか感じ取れなくて、当たり前の反応なのに、やっぱり私の好意は意味を持たないし、きっと諏訪さんも迷惑だ。会わなくなったからと言って、すぐに好きな気持ちが消えたりしないし、ちょっと会えばまたすぐ好きな気持ちがいっぱいになるし、どうしていいかわからない。いっそのこと告白して玉砕した方が自然に諦められるだろうか。いや、そもそも明らかに諏訪さんが私をかわいがってくれているものに恋愛感情なんてないし、ガキだと思われてるし、無理が多い。単なる迷惑行為でしかない。
 一人反省会をいくらしても解決するものでもないし、友達と訓練の約束の時間を過ぎそうなことを思い出し、慌てて気持ちを切り替えた。