「最近来ないよね」
「もう十分強くなったしな」
「つまんなーい」
「おサノが呼んであげればいいんじゃないか?」
 隊室で暇を持て余した小佐野が最近来ないに会いたいと俺を見て言ったけど、どうすることもできない。六千超えたのでこれからは一人でがんばってみますと言い、個人ランク戦で会えば話したりはしていたけど、自分ももうしばらく会っていない。かわいがっていたから独り立ちしていくのはやっぱり寂しいと思うが、本人がそう言えば引き留める理由もない。けれどもう会えなくなるわけでもないのに、こんなにも毎日がつまらなくなるとは思ってもいなかった。
「そう言えばなんですけど、最近とクラスの奴が付き合ってるってうわさがあって」
「そうなの? もう呼ぼう、話聞こう」
「あくまでうわさなんで、本当かはわかんないですよ」
「そういうのは女子だけでやってくれ」
 ボーダー隊員とはいえ十六歳で高校生をしているのだから恋だなんだの話題が出ることも当たり前の事だし、気にすることでもない。でもなんとなく聞きたくない。この感情がどういう意味のものかは全く見当がつかないけれど、そんな若い風をふかれたら、居心地が悪い。
「諏訪さんはのこと好きだもんね」
「はあ?」
「おサノより可愛がってたしな」
「そりゃ戦闘員のがしごき甲斐があるからな」
「なんか、そんなんじゃなくって、親戚のおじさんみたいな?」
 堤と小佐野が同意し合っているのを笑って見ている日佐人も全員にむかついた。


 ラウンジで授業のノートを写しているとき、たまたま佐鳥君に会った。一緒に早退した日の分だったから、写した方がいいんじゃないかって言ったら突拍子もない言葉が投げられた。
「杉本と付き合ってるってほんと?」
「ほんと、ってどういうこと? 付き合ってないよ!」
「そうなんだ。クラスの奴らが言ってたから。それに今だって杉本のノート持ってるし」
 へらっと笑いながら言うのに意地の悪さとかが見えない分、憎めない。いい人なんだけど、しゃべると何か違うの典型だと思う。広報担当の嵐山隊に所属しているし、狙撃の腕も確かだから、ひそかに憧れている女の子はボーダーの中にも外にも多いのに、本人がこんなんだからいい寄る女の子は少ない。男らしさが足らないのかな。
「杉本君は隣の席だし頭いいから、勉強の事聞きやすいだけだよ」
「そっかあ、付き合ってないのか」
「なんで佐鳥君が残念そうなの」
「付き合ってたらめでたいじゃん」
「そうかな」
「まだ諏訪さんのこと好きなの?」
 こう言う考えなしっぽくて頭の悪そうなところが、モテない理由だと思う。モテる要素も多いのに、モテない要素がそれを上回っていると思う。私が言うのもなんだけれども。
「……佐鳥君は好きな女の子いないの?」
「俺は女の子のこと全員みんな好きだから」
「じゃあ私、佐鳥君と付き合おうかな」
「え、本当に!?」
「冗談に決まってるじゃん」
 だよねえ、と悲しそうな顔を浮かべるから、どこまで本心だかわからない。多分全部本心なんだろうけど。
「佐鳥君の事、サトケンて呼んでいい?」
「いいよ大歓迎! なんか仲良くなった気分」
「サトケンもちゃんと勉強した方がいいよ」
「うーん、でも俺もうすぐ隊の集合時間だからちゃんの見てるよ」
「テスト前に泣いても時枝君は助けてくれないよ」
「そんなことないよ。とっきーやさしいから」
 何故かこのあと時枝君がやさしかったエピソードを聞かされて、それってやさしいの? と思うエピソードもありつつ、恋バナなんてこれっぽっちもしてないみたいにすっかり忘れて、サトケンは隊室に帰った。サトケンって呼ぶのはなんとなく敵を作るんじゃないかって今まで避けていたのだけれど、杉本君とうわさになるよりはマシだ。一人と特別に仲が良く見えるからいけない。他のみんなとも仲良くしてればきっとうわさなんて自然と消える。ノートを返すのがちょっと憂鬱になったけれど、勉強はしておかないといけないし、今までもお世話になったし、これからもお世話になる予定だから、変な感じにはなりたくない。