ラウンジでだらだらしていた時、風間に声を掛けられた。今度の飲み会に行けるかわからなくなった、ってそれが用件だったはずなのに、コイツも暇なのか、座席に居座り雑談を始めた。
「弟子がずいぶん成長したみたいだな」
「弟子って程でもねーよ。勝手に強くなっただけだ」
「結構入れ込んでるように見えてたけど」
「んなことねーだろ」
「そうか」
無表情のくせにちょっとつまらないと言った雰囲気を醸し出すからむかついた。最近の話題が出るといつも腹が立っている気がする。人をおちょくるようなことばかり言われるからだろうけど、いちいちむかついていてもキリがない。
「アイツはお前の事が好きらしいって、うちの隊では話が出てたけど」
「馬鹿言え。十六からしたら俺らなんておっさんだぞ。あり得るかよ。こっちだってあんなガキ興味ねー」
「そんなもんか」
「いや、お前なら十六の女相手でも犯罪臭しねーかもな」
実際、風間隊の若いのと一緒にいても年齢差を感じさせずに過ごしてるのはある意味すごいと思う。と言うより自分と同い年なのを知った時はびっくりしたし、今でも本当に同い年かよって思う時もある。
無事に六千の壁を越え、諏訪さんとの訓練は終わった。時々、本部で諏訪隊の人と会った時には訓練に誘われて一緒に自主練をしてもらうこともあるけど、もうほとんど会うこともなくなった。それでも会えば好きだなって感じてしまうのはどうすることもできないことなので、自然と気持ちが消えるのを待つことにした。
それなのに、たまたまラウンジで近くの席に諏訪さんと風間さんを見つけ、何の話をしてるのだろうと思ったら聞き耳を立てたりしなくても声が大きい諏訪さんの声は耳に届く。
「馬鹿言え。十六からしたら俺らなんておっさんだぞ。あり得るかよ。こっちだってあんなガキ興味ねー」
「そんなもんか」
おっさん。風間さんにはそんなこと思ったことないけど、諏訪さんには思ったことはある。でもそれが恋愛と何の関係があると言うのだ。友達にもおじさまみたいな俳優が好きな友達もいるし、おじさんだから好きにならないで済むなら、芸能人の二十近い歳の差婚だってなくなるはずだ。人の気も知らないで、と怒りたくもなる。私だって好きにならずに済むなら好きになりたくなんてなかった。歳のこともそうだし、ボーダー内で恋愛なんてきっとうまくいかない。うまいことする自信がない。学校内の、クラスメイトたちの恋愛でさえ時々ややこしいのに、恋愛初心者の私がそんなのできるわけがない。
「って最近、杉本くんと仲良いよね」
「そうかな。でもよく話するかも。席隣だし」
「たまにいい感じっぽいって思うんだけど」
「うんうん。いい雰囲気だよね。のタイプじゃなさそうだけど、お似合いな感じする」
「にはああいう男の子がいいと思う」
「えー、そうなのかな」
お昼休みお弁当を広げて出てくる話題はやっぱり恋愛絡みが多くて、仲良しのグループ内には彼氏がいる子も片思い中の子もいて、自然とそんな話題が多くなる。諏訪さんのことをボーダーの先輩がかっこいいんだよって話したこともあったけど、大学生の彼氏って憧れるけど、実際はおじさんで嫌だなって、お兄さんがいる友達が言ったことで、私のも付き合いたい好きじゃないってことになっている。その時はちょっともやもやしたけど、結果的にはこれでいいんだ。諏訪さんのことは好きだけど、恋人同士になりたいわけじゃない。特別な存在ではいたいけど、妹ポジションとか、弟子としてかわいがってもらっている今で十分。そう言い聞かせながらも、友達の彼氏の話を聞いて、諏訪さんだったら、を妄想してしまうから、やっぱり本心と頭の中はめちゃくちゃだ。
「杉本君、ノートありがとう。今度何かお礼させて」
「いや別にいいよ。ボーダーの人いつも大変そうだし」
「大変だけど、私はそんなに大変じゃないよ。佐鳥君とかもっと大変だし」
「そうだね。賢は中でもいない日が多いか」
「広報担当の隊だし、強いからすごい忙しいと思う。私なんかより全然」
「うん、でも、さんもすごいし偉いと思うよ。学校休んでも勉強ちゃんとしてるし」
「それでも杉本君より頭悪いよ」
「授業ちゃんと出てるのに負けたら困る」
隣の席の杉本君はいい人だ。やさしいし、困ってると声をかけてくれるし、落ち着いている。友達にお似合いと言われてから本人と話しても、動じないし、意識をすることもないから、好きでもなんでもないんだなとがっかりする。杉本君を好きになれたら、どんなにいいだろう。ボーダーのことは知らない彼となら、友達みたいな年相応の恋愛ができるのではないだろうか。一緒に帰って、帰り道にどこかで買い食いしたり。でも学校帰りはほとんど本部に直行の私たちにはそれも夢のまた夢だ。ボーダーの高校生って恋人とかいる人いないのかな。そんなのに憧れてる内は強くなれないか。早くどこかの隊に入れてもらって、チームランク戦に参加出来たら違うのかな。