今日はお昼ご飯を一緒に食べることは決めていて、そのあとのことは会ってから相談して決めようと話していた。久しぶりの一日休みだから時間もいっぱいある。ゆっくり会って話をしたら、きっとこの見えない不安から逃れられるのではないかと、淡い期待に身を包んでいた。
店につくと、彼女は少しだけそわそわしているように見えた。何かあったかと振り返るけど、特に普通の会話しかしていないし、待ち合わせ場所で行き会った桐絵と宇佐美についてはちゃんと説明をしたし、この店も、彼女が行きたかったと提案してくれた店だから、特に問題があるわけではないはずだ。
「どうかした?」
「え? なんで?」
「落ち着かないみたいだから」
「……わかる?」
「うん」
笑顔で頷いても、彼女は顔に不安を張り付けたままだ。みずきは手に持ったメニューを一旦テーブルに置き、カバンへ手を伸ばした。
「……遅れちゃったけど、お誕生日、おめでとう」
びっくりしすぎて、言葉が出なかった。まさか祝ってもらえると思っていなかったし、結局彼女には誕生日のことはひとことも言っていない。
「これ、よかったら、どうぞ」
「ありがとう」
小ぶりのブルーのラッピングは、思った以上に嬉しかった。想像をはるかに超えた喜びが押し寄せてくる。もやもやとした感情もすべて流されそうだった。
「開けてもいいかな。あ、でも先に注文しちゃおうか。メニュー決まった?」
「あ、まだもう少し考えていい? ちなみに准はどれ?」
「俺はこれ」
テーブルの上にあるメニューを指さす。それも美味しそう、と彼女は呟いて、またメニューを選ぶ。その間にこっそりラッピングを外し、中身を取り出す。
「筆箱だ。いい物のかおりがする」
「本革だし、長く使えるかなって」
「嬉しい。ありがとう」
そう伝えたら彼女も嬉しそうに笑ってくれて、もう細かいことはどうでもよくなった。
「メニュー決まったよ。これにする」
「じゃあ注文しようか」
注文を済ませて、もらったプレゼントは片づけてカバンにしまった。そのあとは、夏休み何がしたいかの話になって、誕生日の話題はどこかへ消えた。彼女の誕生日も聞いておきたいと思っていたことは、すっかり忘れてうかれていた。
お店に着いて、プレゼントのタイミングを考えていたらそわそわしているのがばれて、隠してもしかたないから先にプレゼントを渡した。喜んでくれた顔を見たらほっとして、言いたかったこと全部、今言わなくてもいいかなって思ってしまった。准の方も気にしていなかったみたいだし。今楽しい気持ちをささいなことで台無しにしたくない。でも帰りまでには、少し話せたらいい。もやもやはずっと残っていたけど、考えるのはいったんやめた。
ランチのあとはデザートを食べに行こうと話したけど、お腹がいっぱいだったから、街をぶらぶらした。ボーダーの顔である嵐山准と昼間から一緒に街中を歩くことに罪悪感があった。でも彼氏なんだからこれくらいは当たり前だよな、と自分に言い聞かせていたけど、やっぱりだんだんと、不安が勝って、このままじゃだめだと思った。
「……わたしと付き合ってるのって、秘密の方がいいんだよね?」
「そんなことないけど」
「でも、今日会った、いとこ? の子もそう言ってたでしょ?」
「ああ、あれはボーダーでの話だから。別に隠すようなことじゃないって、俺は思ってるけど」
隠すことじゃないかもしれないけど、言いふらしたり自慢するようなことじゃないと思う。こうして一緒に歩いているのだって、本当はいいのか気になってる。嵐山准は、この三門市ではヒーローなのだから。
「無理に隠そうとしなくて平気だから」
「……そうじゃなくて」
「それとも、嫌だった?」
何て言えばいいかわからなくて緊張する。暑いだけじゃなくて、変な汗が出そう。
「どこかでゆっくり話そうか」
上手く言葉を伝えられないわたしを気遣ってそう言ってくれた。本当は言いたいこともあるけど、どうしても人目が気になってしまう。
「かき氷はそのあとにしよう。場所、どこがいいかな」
そう言って考えてくれる。きっと准の方が市内にくわしいから、ゆっくり話せる場所もきっと知ってるはずだ。任せてしまって申し訳ないけど、下手な場所を選んで准に迷惑をかけたくない。
「本当はあんまりよくないけど、警戒区域のすぐ近くの公園なら、人も来ないからそこにしよう」
にっこりと笑って、わたしの手をとった。突然のことでびっくりした。
「何かあれば、全力で守るから大丈夫」
手の体温が高くてくらくらしてしまいそうだ。こんなこと、いいのかなあ。知らないファンの女子に呪われてもおかしくない。でも、嬉しくて放したくはなかった。だからこそ、今後のことを、話しておかなければいけない。そう強く思った。