嵐山くんと付き合うことになって、わたしは浮かれていた。正直、好きだった元彼と付き合うことになった時みたいなドキドキを今は感じてはいないけれど、これから楽しいことがたくさん待っていると思ったら、胸がいっぱいになった。考えれば考えるほど、嵐山くんのかっこいいところを思い出せるし、恋人になった実感は薄かったけど、じわじわと、増加していった。
嵐山くんは有名人だから、わたしたちの関係は、きっと秘密の方がいいと思った。なので極力、学校内では友達を貫いたし、友達にも、もう少ししてから話そうと思った。その一番の理由はテスト期間がすぐそこにきていたからで、今話すと、自分も周りもテスト勉強どころではなくなってしまうと言うのもあった。
一緒に勉強したりしたいと思っていたけど、なかなか時間が合わなくて、次にちゃんと会えたのは、付き合うことになってから三日も経っていた。大学で毎日のように顔を合わせる日もあったのにな、と思ったけど、それよりも今日会えることが嬉しかった。
「今日はバイトは休み?」
「うん。もうテスト期間だからシフト少なめにしてもらってるの」
「そうか。ならよかった」
「嵐山くんは、今日ボーダー行くの?」
「夜に会議があるけど、それまでは時間あるよ」
「そうなんだ」
大学を出た直ぐで待ち合わせをした。嵐山くんが一人で待っていると目立ちそうだったから、できるかぎり早く待ち合わせ場所に行った。にも関わらず、嵐山くんはすぐに現れたし、逆に、待たせてごめんと謝られてしまってなんだかこちらが申し訳ない気持ちになった。
一緒に帰ろうと約束をしていたけど、寄り道をできるものだと思っていた。夜の会議って、何時までは一緒にいれるのだろう。せっかく付き合い始めたのに、すれ違いばかりで少し寂しい。
「」
「え?」
「名前で呼んでもいい?」
「うん。もちろん! わたしも名前で呼びたい」
「どうぞ」
「准くん、かな。呼び捨て?」
「どっちでもいいよ」
「准。准くん。じゅん……嵐山くんに慣れすぎて変な感じ」
顔を合わせて笑い合う。甘ったるい。幸せだ。こんなささいなことで嬉しくなれる。わたしも嵐山くんに幸せをあげられる人になりたい。
「テストが終わったら、夏休みになったら、どこかでかけられるかな。ボーダー忙しい?」
「大丈夫。時間は作るよ。何がしたいか、考えておいて」
「うん。楽しみだからいっぱい考えとく。テストも頑張る」
先に楽しみが待っていれば、嫌なことも頑張れる。そういう性分はかわらない。先にしすぎてその間に浮気未遂をされたけど、学習してない。次の予定がない不安には勝てなかった。
久しぶりに会えた日は、寄り道もせず彼女を家まで送って、自分は基地へと戻った。テスト期間はたしかにテストに集中したいけど、昼休みとか、学校で会える時間だってあるはずだ。学校で会ってもただの友人のような振る舞いと、「嵐山くん」呼びに戸惑いはしたが、彼女なりの配慮のようだった。本当に、テストが終わるまでは二人で会えないのだろうか。
考えてみれば、はっきりと好きだとは口にしてもらっていなかった。元彼を忘れるために自分と付き合うことにしただけだったとかも、考えられなくはない。まだ完全に彼女の気持ちを振り向かせられていないから、もやもやした感情が募るのか。そう考えると、自分の誕生日に無理して会うのはやめとこうと思った。ただひとこと、好きな女の子に祝って欲しかっただけではあったけれど、彼女の負担になっては困る。一緒にいれば嬉しそうにしてくれているけど、会えない時に、会いたいとは思ってくれないのかと思ってしまうと、どうも本心がわからない。元々そういう子なのかもしれないけど、単に自分への気持ちが足らないような気もしてしまう。
彼女がまだ自分に心を許していないというなら、がんばるしかないのだけれど、彼女のペースがあるというなら、それに寄り添いたい。
十八最後の日は、そんな青臭い悩みに翻弄されていた。