元彼はあれ以来ちょくちょく連絡をしてきて、わたしもなんとなく返してしまっている。よくない気もしているけど、すっぱりと関係を切れるほど、強くなかった。今わたしにこうして連絡をくれるのも、会いに来てくれたのも、嫌いだったらできないはずだ。わたしが聞いた話なんてあてにならないし、そもそも今別の人と付き合うことになっていたとしたら、こんなこともしないだろうし、別れたいと言ったのが、大学生活が始まったばかりの一瞬の気の迷いなら、許してあげてもいいような気にさえ、今なっている。
「ねえは嵐山くんとはどんな感じなの?」
「どんなって、友達、かな」
友達って言うほどではないような、けど知り合いよりは友達かな。そう思って言えば、友人はため息を吐く。
「あの日、あきらかに嵐山准はアンタに興味あったと思うんだけど」
「そんなことないでしょ」
「私は彼氏いるし、にいい男がいないかってちゃんと考えて参加してたからわかるよ。こうなったらもう嵐山准一択でしょ、なんでそんなのんびりなの」
「いやいや、なんでそうなるの。嵐山くんそんな気ないでしょ」
三限が休講になり、暑いし冷たいものを食べようと同じ授業だった二人でカフェに来ていた。高校から一緒のこの子と二人で遊ぶのは、考えてみたら久しぶりだった。
「嵐山准なら、のことを絶対幸せにしてくれると思う」
「嵐山くんがわたしのこと好きってなんでそんな自信満々なの?」
「元彼より全然いいでしょ」
「……言ってなかったけど、元彼と会った」
「はあ? どの面下げて来たの? マジでくそじゃん」
コーヒーゼリーが入った飲み物がテーブルに届く。友人のかき氷に乗ったアイスは美味しそうだけど、冷房の効いた店内では体がすぐに冷えてしまいそうでやめた。友人は不機嫌そうに氷を口に運ぶ。元彼のこと、言いにくい。
「連絡はちょっと前から来てて、会いたいって言われたけど無視してたらバイト先に来て」
「きもい」
「すごい雨の日で、ファミレス行こうって言われて行って、雑談して送ってもらって帰った」
「何もしてない?」
「してないよ。触ってすらない。それに別れた話も恋愛関係の話題も何にも出なくて、なんか、拍子抜けしたって言うか……」
「許しちゃダメだから」
「わかってるよ! でもさ、ずっと好きだったし、まだ嫌いじゃないって思うっていうか」
「他の女に振られでもしたんじゃないの? それで戻ってきただけでしょ。それか自分が幸せ過ぎてアンタに申し訳なくなって会いにきたとか。とにかく今戻っても絶対幸せになれないよ。大学だって違うんだし、心配になったり不安になったりして苦しいだけだよ」
わかってるのに、その通りに行動する自信がなくて何も言えない。友人だって意地が悪くて言っているわけじゃない。現に彼女の恋人も違う大学で、しかもなかなか会えない距離に住んでいる。同じ大学だったら、と思うことだってあるだろう。けれどきちんとお互いの将来を考えて、別の大学を選んだ。それを知っているから、彼女の言葉は重い。
「じゃあ嵐山くんと一回デートしたら?」
「え、なんでそんな話になるの?」
「それでも好きになれないか、見極めればいいじゃん。元彼を忘れられなかったら、もう私は何も言わないよ」
「ねえ、それもしもわたしだけ本気になって嵐山くんがなんとも思ってなかったらどうするの?」
「その時は、あの嵐山准とは流石に付き合うの難しかったかーってまた合コンでもなんでもしようよ」
「無責任すぎる」
「いいじゃん。なんなら私が嵐山准にお願いしてあげるし」
「それはいいよ」
「自分で連絡する?」
「うん」
「絶対だからね。あとで嵐山准にも確認するから」
友人の押しには勝てない。こんなしょうもないお願いに付き合ってくれるかもわからないけど、自分の問題だから、ちゃんと自分から嵐山くんにお願いしてみようと思った。
まだブレブレの気持ちが、友達のおかげで少しだけ、元彼から離れられた気がした。こんなことでそう思うなんて、やっぱりそれだけの気持ちなのかもしれない。たとえ嵐山くんとは何もなかったとしても、元彼をふっきるきっかけくらいにはなるかもしれない。
コーヒーゼリーの飲み物は、思ったよりも甘くなくて、友人のアイスをひとくち盗んだ。甘くて美味しい。わたしのもひとくち欲しいと言われたので、喜んで差出した。