「お、ちゃんやん。お疲れさま」
「お疲れ。生駒くん、隣いい?」
「どうぞ」
一年の授業は、学部学科関係ない授業が多いから、人も多い。友達もどこかにいるだろうけど、いないかもしれないし、この中から探すのには時間がギリギリすぎたので、知り合いである生駒くんの横の席に座った。
「ちゃん会うん久々やな、元気やった?」
「元気だよ。生駒くんも元気そうだね」
友達が元々繋がっていただけあって、生駒くんは親しみやすかった。話しやすいし、友人との会話にもよく出てくる。
「なあ、知っとる? 学食、夏野菜カレー始まったで」
「へぇ、そうなんだ」
「俺な、ナスカレーが一番好きって言うてんのやけど、夏野菜も普通にウマいし、ナスにこだわらんでもええ気もしてんねん」
「どうでもいいよ。ピーマン抜いてもらえば?」
「いや、それは違うやん。別にピーマン嫌いちゃうし」
全部真面目な顔で話すから、ついつい笑ってしまう。生駒くんのことはまだよく知らないけど、すごいどうでもいい話をしてくれるから、話すのは楽ちんでいい。無言で気まずく思うこともないし。
「ちゃんはかわいいなあ」
「え?」
「笑っとった方がええと思うで。あ、かわいい言うたの齋藤ちゃんには内緒な。今ええ感じやねん、わからんけど」
「どっちだよ」
生駒くんがあんまりにもすぐかわいいと言ってくるので勘違いしそうになる話はもちろん聞いている。こうやって自然に言えるのはすごいなと感心してしまうし、そこに下心が見えないから素直に嬉しいとも思う。
「ちゃんは嵐山と連絡とってへんの?」
「え、なんで?」
「いや連絡とってんのかな思て」
「とってないよ」
「そうなんや」
「うん」
わたしたちの出会いが合コンだった故にみんな筒抜けなのはお互い様だ。でも、嵐山くんから連絡が来ることもないし、そもそもわたしたちの間にはまだ何もない。まだ、と思えたのは少しだけ生駒くんといい感じの友人が羨ましいと思ったらからかもしれない。
月曜の夜、嵐山くんから「明日、友達がみんないないから一緒にお昼を食べないか」と連絡をもらった。別に断る理由もなかったから、いいよと返した。合コンにだって、友達ができたらいいくらいの気持ちで参加していたし、現に生駒くんとは普通に友達のように接しているわけだし、嵐山くんだって、普通に友達でいたらいい。ボーダーの顔だけど、わたしたちの前では普通に男子大学生だ。高校生の頃だって男友達みたいな人はいた。卒業してからも個人的に連絡をとるほどは仲良くはないが、クラスのみんなで集まると言われたら嬉しい。それくらいの距離感を保てたら、楽しいことが増えて嫌なことも忘れられるようになるかもしれない。元彼の代わりを探そうとしても無理だし、しばらく恋人もいらない。だからと言って、嵐山くんを避ける理由はない。別に、嵐山くん、わたしのこと好きじゃないだろうし。連絡先を聞かれたり、生駒君に言われたりしたことは気になったけど、どれもそう決めつけるほどの事じゃない。わたしだって普通に友達になれるなら喜んでお友達になりたい。
嵐山くんが「学食はあまりゆっくりできないから」と連れてきてくれた大学の近くのお店は、なんだかいいお店みたいでドキドキしたけど、メニューを見たら至って普通の価格で安心した。今度友達と来たいと思うような、おしゃれなお店だった。
「近くにこんなところあるなんて初めて知ったよ。よく知ってるね」
「三門市内のことは、よく勉強してるから」
「そんなことまで、大変だね」
「でも穴場を見つけたり、こうやっていいこともあるよ」
嵐山くんが話すボーダーのことは、すごく楽しそうで、ちっとも大変さを感じさせない。けど、テレビとか実際に起きた事件とかを考えると、ボーダーはすごく大変だと思う。そんな人が、わたしと同じ大学に通って、一緒にお昼ご飯を食べるなんて、不思議。
「けど嵐山くんも、普通の大学生なんだよね」
「うん。学校帰りにアイス食べながら帰ったり、普通だよ」
「想像つかないなあ」