生駒に誘われた合コンは最初乗り気ではなかったのだが、弓場が来られないと言ったので自分が行かないと人数が合わないと言われてしまった。偶然にも日程が合いそうな日はたまたまオフだったし、「嵐山呼んだら俺すごい人やん? 他に友達おらんから来て頼む」と言われ、たまにはいいかと参加することにした。ボーダー外の友達も少なくはないが、立場上、気軽にそういったものには行きにくい。だが今回は参加する男たちはみんなボーダーの人間だし、気を遣うこともないだろうと思った。
 その時に知り合った女の子。目の前に座った、楽しそうにしているけどどこか悲しい顔が気になって仕方なかった。その理由がどういったものなのかはわからなかったけど、チェックのワンピースが印象的だった。
 電話帳に追加された名前を眺めながら、自分が何をしたかったのかと考える。悲しそうな顔をしているのが見ていられなかった。本当にそれだけの理由で他人にやさしくしていたら、身体が何個あってももたない。なんとなくわかっている理由も、まだ気が付かないふりをしておこうと、スマホの画面を暗くした。

「嵐山、この前の子となんか進展あった?」
「見えてるくせに聞いてくるのは、意地が悪いな」
「いやぁ、ちゃんと直接聞いときたいじゃん」
「お前が面白がるようなことは、何もないよ」
 数日前、本部でばったり会った生駒、迅と先日の話になった。生駒や柿崎は授業のことで連絡をとったりしたと話していたけど、出れていない授業もレポートも、今のところ困っていなかった自分は連絡する口実がなかった。迅も大学の話題はないから特に連絡をすることもないと言っていた。ただ、その時にこちらに向かって含みを持たせていたセリフはたぶん現実となった。けれどその先の面白いような話は何もない。大学で会って、電話番号を聞いた。ただそれだけだ。
「でも嵐山があんな女の子を気に掛けるなんて珍しいよな」
「そうかな」
 はぐらかそうとしても、見透かしたような顔をされると弱い。未来の自分の行動がわかるというのだから、隠したり誤魔化したりしても無駄だとわかるけれど、もう少し、じっくり考えたい物事だってある。特に私生活に関わることは。でもそんなことに割いている時間もないので単刀直入に聞いた。
「やめた方がいいと、思うか?」
「苦労はするかもしれないけど、そんなことで諦めるような男じゃないだろ」
「それもそうだ」
 その場は笑って受け流したけど、苦労って一体どういうことなのか。果たしてどう行動するのが正しいのか、今は全く予測できないけど、前向きに距離を縮めることが出来たらいいか、なんて思っていた。


 じめっとした季節が始まった頃、元彼から連絡がきた。元彼、と割り切って呼べるようになったのは、つい最近のことだった。なんてことのない、わたしの好きだったバンドの新譜がいい、とかそんなたわいのない話題。元々わたしが好きで、彼に勧めたものだし、メジャーではないから話せる人がいないのかもしれないけど、わたしにわざわざ連絡するほどの事ではないと思う。ムカつく。でも嬉しいってちょっとだけ思っている自分にもムカつく。
 他の好きになれる人がいれば違ったのだろうか。嵐山くんとは、電話番号を交換したからと言って連絡を取り合ったりもしてない。特別な関係な気もするし、だからなんだと言ってしまえばそれまでの関係でもある。友達に言えば彼とどうにかなるよう言われたり仕向けられたりしそうで、言えていない。まだ新しい恋を始められるほど、強くない。自分で思っていた以上に、元彼のことが好きだったし、傷ついたし、純粋だったなと、思う。元彼とあの頃に戻りたいと思うし、今更元通りになるのは無理だとも思う。その割り切りの中に、他の男の子を登場させられるほど、器用じゃない。嵐山くんに出会うのがもっと遅かったら、今と違ったかもしれないけど、そんなもしも話に意味はない。
 久しぶりに連絡が来て数日後、「近いうちに会えないか」と元彼に言われた。自分は人の要求を突っぱねておいて、よくそんなことが言えたなと思った。考えたら負けだと思い、無理とすぐに送信するも、家の近くまで行くからと言われ、そういうことを言っているのではないと、わからないのかな。わからないだろうな、あいつだもの。そのあとは通知を切って無視することにした。