SS「最後のキス」の続き
本当はずっと一緒にいたいと思っていた。でもそれをうまいこと、どうにか続けていくことが私には難しかった。そう思い込みながら、過ごした時間を思い返してしまう。
別れてからもずっと好きだった。そこに嘘なんてない。去年まで付き合った彼のことも好きだったけど、きっとそんなに好きじゃなかったのかもしれない、なんてことさえ思う。だって、最初に付き合った人がこの人なんだもの。
「久しぶりだね」
「うん。久しぶり」
「……会えて、よかった」
どういうつもりで連絡をしてきたのかは、私にはわからない。でも、きっと昔よりも自分のことはわかっていると思うから、きっとこの期待は裏切られないと、思ってしまう。
「四年ぶり?」
「もう、そうなるな」
中学三年になってすぐ別れてから、必死に勉強して女子高に進学した。高校二年になって、塾が一緒の男の子と付き合った。そのことを准が知っているかはわからない。その人と付き合わなければよかったとは思っていない。好きって言ってくれたし、好きだったし、高校生活の楽しい思い出にはなった。彼は推薦で私よりも先に進学する大学が決まり、受験が残っているというのに勉強から解放された彼と価値観が合わなくなり、面倒になって別れた。大学できっとたくさん出会いがあるだろうし、お互い納得した別れだとも思う。嫌いで別れたわけではなかったけど、好きなまま別れた准の方が、私の心には居座っていた。
「……どこか、入る?」
大学生になって半年くらいの時が過ぎた。准が変わらずボーダーで活躍していること、三門市立大学に進学したこと、ある程度のことをなんでも私は知る方法があった。
「うん。そうしようか」
立ち話で済むようなことじゃなかったのか、と、嬉しいような不安なような気持ちだ。どんどんと期待が膨らんでいってしまう。
行ったこともない知らないカフェに入る。こんなところにカフェがあるなんて知りもしなかった。おしゃれな安っぽいカフェとは違って、ずっとここにあったような店構えと、少し高級そうなソファは居心地がよさそうで、店内には年配の人がくつろいでいる。
「こんな店あったんだね」
「広報の仕事で知ったんだ。落ち着いてて……いい店だと思って、時々来るんだ」
「その間、なに?」
ずっとしていた緊張はまだ解けない。でも少しだけ、張り詰めていた空気は和らいだ気がする。いつだって自信ありげな准が言いよどむなんて珍しかった。
「が好きそうな店だって、ずっと思ってた」
「そうだね、好きかも」
「三門、出たと思ってた」
「うん。いろいろ選択肢はあったけど、家から通ってるよ」
「それを知ったとき、どうしても会いたくなって」
注文したコーヒーと紅茶が運ばれてくる。付き合ってた頃の、中学生の准はコーヒーなんて飲めなかったと思う。もうずいぶん、大人になってしまった。
「……今日、彼氏は、平気、だった?」
「いないし平気だよ」
「え?」
「高校生の時に付き合った人とはもう別れたよ」
「そうか……」
静かに、カップを口に運ぶ。この雰囲気も沈黙も嫌じゃない。これは、いい感じなんじゃないだろうか。そんな期待をしてしまう。テレビではよく「男はいつまでも振った女が自分のことを好きだと思っている」なんて言われているけれど、女だってそう思っている。臆病だから口にしたり、行動しないだけでそうだ。まだ好きで、いて欲しい。
「別れたって聞いて、喜んじゃダメだよな」
「それを聞いて、私は嬉しいけど」
「……本当に?」
「うん」
よく知ってる准の顔だ。嬉しそう。私も嬉しい。こういう感情を、素直に出せるのは大人になった証拠なような気がする。中学生の時は、すべてのことが恥ずかしくて素直になんてなれなかった。
「俺のこと、もう嫌いなんだと思ってた」
「そんなことはなかったよ」
「三門第一に行くって言ってたのに、別れた後いつの間にか違う高校に進学したり、ボーダーの関係でいろんな友達が連絡くれるのに一度も連絡くれなかったり」
「だって、またすごく好きになったらつらいから」
「それは……早く知りたかったな」
またひとくち紅茶を飲む。胸のあたりがあたたかくなって、浮かれてしまいそうだ。
「今ののこと、教えてほしい。知りたい」
「私も。ボーダーの嵐山准じゃなくて、大学生の嵐山准のこと、知りたいな」
中学生のような初心さはもう持ち合わせていないけど、きっと今の方がうまく関係を築いていけると思う。