お題:最後のキス


 最初で最後になった口付けは、思い出になるはずだったのにどうしてもうまく思い出せない。初めてできた恋人と、初めてのキスをした。次があると思っていたのに、次がこないまま、私たちの関係は終わってしまった。
 あれが最後になるのなら、もっとしっかり慎重にするべきだった。不意をつかれて、あまりわからないまま、過ぎ去ってしまった。ドキドキしたこと、そのあと何も手につかなくなったこと、そういうことは覚えているのに、キスの味だとか感触だとか、そんなものは何も記憶に残っていない。もったいないなあなんて思うのは、まだあの恋を引きずっているからなのか、それともいつの間にか手の届かないところにいってしまった彼へのミーハー心なのか。

「何で別れたの?」
「会えなくなるって言われたから」
「え、それだけ?」
「わざわざ面と向かってそんなこと言ってくるなんて、別れたいんだなって思うじゃん」
「え〜、嵐山ってそんなんじゃなくない?」
「……そうかもしれないけど、中学生には十分すぎる理由でしょう」
「まあ、そうだよね」

 大学生になって、彼はどんどん有名人になって、私は相変わらずで、けど初めて付き合った人に代わりはないわけで、ファーストキスもあの人な訳で。

「連絡とかしないの?」
「用事ないし」
「向こうだって忙しいか」

 ウソをついた。こんなことを軽いノリで話してしまったのも、数日前に本人から連絡が来たからだ。こうやって自分の中で保険をかけている。もしもまた准と会うことになった時に、友達に言い訳ができるように。
 最後のキスにならなかったら、そう思うとやっぱりドキドキしてしまう。期待してもいいのだろうか。
680字