SS「放課後」より


 感情受信体質。その名を与えられたときに、少しほっとしたようながっかりしたような気持ちがした。訳の分からない謎の感覚は、他人からくるもので、自分にはどうにもできないことに、諦めと安心を抱えた。ボーダーに入隊して戦闘を繰り返すうちに、感覚はどんどん研ぎ澄まされていったように思う。戦闘中は役に立つし、ボーダーは学校よりも居心地がいい。なんだかんだと言う奴もいないわけではないが、外よりはよほどマシだ。
 変わり者で済ませてもらえるならそれでいい。何も感情を向けてくるんじゃねえ。うんざりするくらいそう思って生活をしているのに、たった一人、ソイツにだけは、もう少し違う感情を求めてしまう自分がいた。
 家族と似たような感情を向けてくるソイツといるのは居心地がよかった。だけど、同時にそれ以上の気持ちはないのだと知り、悔しいと思った。その悔しい気持ちがなんなのかをわかってはいるものの、認めるのもそれまた悔しい気がして、知らないふりをしていた。
 一度、かーちゃんみたいだと言ったことがある。嘘ではない。受信する感情が似たようなもんだと思ったから。戸惑うかと思っていたけど、あっさり嬉しいと言って受け入れられて、結局コイツの俺への感情はそれで終わりなんだなと、悟った。
 それでも昔と変わらず話しかけてくるし、店へも顔を出すし、ボーダーの連中ともそれなりに仲良くしていて、自分がどうすべきか、どうしたいかも、いつもよくわからなかった。

「二人は付き合わないのか?」

 鋼がなんの気無しにつぶやいた言葉に動揺を隠せず、アイツのことが好きだと、認めるしかなかった。
 認めたところで何が変わるでもなし、アイツは相変わらずかーちゃんと同じ謎の愛情を向けてくるけど、俺との関係をどうにかしようとなど、これっぽっちも考えてない。それがわかっていて、何かをこちらから言う気にもならなかった。
 鋼や荒船がいくらアイツはお前に気があるだろうと言ってきても、こっちはサイドエフェクトで向こうが俺に送ってくる感情はわかっているのだ。それなのにどうして勝手なことを言うんだと、余計にイラついた。



 いつも通りのはずだった。みんなで店に集まってテキトーにだべって腹を満たす。それだけのこと。そのはずだったのに、向かう途中での出来事のせいで錯乱する。アイツは今まで俺の前では出さないようにしてただけで、本当は好意があったのか。それともさっきのは一時の恥ずかしさから出たものであって、本当はなんでもなかったのか。足りない頭で考えてもよくわからないし、マスクで暑い。
「二人で話した方がいいんじゃないか?」
「いらねーよ」
「今を逃したら、また曖昧になるだろ」
 横から鋼がそう言って、アイツに俺が話すことがあるなんて言って、当真と穂刈を連れて先に行ってしまった。
「……話って、今がいいの?」
「鋼が言うにはな」
「そ、そっか」
 明らかに挙動不審だった。ソワソワして落ち着きがない。そして刺さる感情も、いつもとは違う。
「急になんなんだよ……」
「え、ごめん」
「そう言うことじゃねえ」
「ごめん」
 話が進まなそうな雰囲気に舌打ちをする。考えることをやめたらしい目の前の女は、いつも通りの笑みを浮かべた。
「からかわれてびっくりしたよね。今まで言われたことなかったし」
 たしかに今までコイツの方に何か言うことはなかったと思う。まあ俺がアイツはなんとも思ってないと言っていたからだろうが。
「でもわたしはちょっとだけ、嬉しかったよ」
 普段とは違う感覚に戸惑って、背中がむず痒くなった。今まで抱えていた感情を、素直に伝える時だ。お膳立てしてもらったようで気に食わなかったが、相手の気持ちがわかった以上、一秒でも早く、自分のものにしたいと思ってしまった。