お題:放課後
「カゲ、今日はお店いるの?」
「知らねー」
「なんだ、残念」
「今日は任務もないし、このあと荒船と約束してる」
「そうなの? じゃ、わたしもついて行こうっと」
「……」
愛想のないカゲの代わりに、近くにいた村上くんが返事をしてくれる。でもカゲの返事が肯定の時ははぐらかすようにすることを、わたしは知っている。違うときははっきり違うと言うのに、そうでない時は曖昧にする。素直じゃなくて、かわいいと思う。
ボーダーでも素行が悪いらしいが、彼のいいところを見つけてくれた友人が周りにはたくさんいる。クラスでも浮いた存在のような彼が馴染めているのは、村上くんたちのおかげだ。独り占めにできなくなって、ちょっとだけさびしいけど、男たちで楽しそうにしているのを見ると、よかったねと思う。
同い年で粗暴な彼に、母性なような気持ちを持っているのは、付き合いが長いから他ならない。キラキラした同級生のような好きを持てたらと思うこともあるけど、どうにも難しい。
カゲに「かあちゃんみてーだな」そう言われたことがある。何それって思ったけど、カゲのお母さんも好きだから、普通に嬉しかった。でも、ずっと近くにいたい。付き合いたい。そういう気持ちもちゃんとあるんだけど、とうぶん伝わることはないと思ていた。
教室を一緒に出て、流れでカゲと村上くん、それから穂刈と帰る。荒船くんはお店で待ち合わせなのだろうか。知らないうちに当真くんも現れて、そこそこの団体になった。こんなことなら友達を誘っておくんだった。男の子ばかりで少しだけ、気まずい。
「ボーダーの人たちってひまなの?」
「俺は夜から任務ある」
当真くんはこう見えてボーダーですごい人らしい。学校生活を見る限りそんな風には見えない。クラスも違うからあまりよくは知らないけど。
「おめーもひまだろ」
嫌みのようなことを先に言ったのはわたしだ。仕返しだとばかりにカゲが言う。それはそうだ、と思って腹も立たない。
「本当に仲がいいよな、二人は」
穂刈が何気なく言ったひとことに、顔が熱くなった。ここにいるみんなに自分の気持ちがばれてしまったような気がして、焦った。他愛のない言葉で、深い意味などないかもしれないのに。
「……そういうことかよ」
カゲに何故かにらまれ舌打ちをされる。すべてを悟ったように、にこにこした村上くん。何を気にするでもない穂刈。そしてにやにやした当真くんが口を開いた。
「何お前ら、実はできてんの?」
否定する前にカゲが当真を蹴り飛ばした。よろめくだけで済んでいるあたり、手加減してあげたらしい。
「できてない!」
「顔赤いぞ。カゲだって、悪い気はしてねーみたいだし」
当真くんに指をさされたカゲがプイと前を向いた。明らかに機嫌を損ねたじゃないか。どうしてくれんの。そう思って当真くんを睨んだら、あいかわらずにやにやして、カゲのえりあしを指さした。
学ランの詰襟と、えりあしの間からすこしだけ見える肌が、赤くなっている。当真くんなんかの言葉を、信じてもいいのだろうか。
「かゆい」
「カゲ、よかったな」
話に置いていかれているような、そうでないような。とにかく、早く平常心を取り戻したくて、必死になった。
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