平年よりも暑さが続くと言われて、この天気予報士のお姉さんのことが嫌いになりそうだと思った。救急車で運ばれる人が出る暑さで、生きるの、ひょっとして難しいのでは。その辺にひっくり返ってる虫も、寿命とかじゃなくてこの暑さで死んでない? 大丈夫? そのうち人間もひっくり返っていても気にも留めない世界になったりしない?
どうでもいい心配をしながらボーダー基地を目指す。建物に入れれば、換装体になれば、この暑さから解放される。そう思うから頑張って歩いているが、日差しは強すぎる。日傘、さぼらず持てくればよかったよ。
「あちーな」
「あちーよ。アイス買って」
「いいけど秒で溶けるだろ。涼しいところで食えれば別だけど」
「ならスタバでフラペチーノ飲もうよ。米屋おごって」
「え~まあいいけど」
「いいんだ」
「まあ、給料入ったし」
「さすがA級!」
隣に現れた米屋は夏休みだけど制服だった。授業出てないから補習でもあったのだろう。
「A級は忙しいのにのんびりスタバとか行って平気なの?」
「今日の補習早く終わって時間ある」
「ラッキー」
「フラペチーノ、普通にラーメン食える値段するよな」
「高いから自分のお金じゃ買えない」
「カワイソウなやつだな」
「米屋が買ってくれないと飲めない! でも新作飲みたかったからめちゃくちゃ感謝するね。ありがとう」
一生懸命手をこすり合わせて頭を下げる。やばい女だということは自覚がある。でも米屋相手だから気軽にこんなことを言えるのだ。出水にだって、こんなこと言えないと思う。
「オレ以外にたかるなよ」
「たかってないよ。米屋だけ。それはマジ」
「ならいいけど」
スタバの入り口をくぐる。新作のポスターを見つけてこれと言えば、米屋がオレもそれにするという。米屋以外とスタバに来るの、たぶん恥ずかしくて無理。米屋と二人でもやっぱりちょっとは恥ずかしいけど、それでもなんか、他の人とは違うから、米屋としか二人では来れない。
今日に限って、なぜかみんなは午前で終わって一人だけ午後も残された。休んだ日が違うから仕方ないのだろうけど、なんで秀次は帰れるんだ。休んだ日ずっと同じだろう。
やっと解放されて外に出るが、暑くて気が滅入る。予定表の時間よりは早く終わりになったけど、結局本部に行けば集合より早く来ようが時間通りだろうがあまり関係ない。遅れる時だけ、連絡を入れたらいい。
冷たいもんでも入れてから行きたい。そういえば給料出たんだっけ。なんか適当にコンビニで飲み物でも買おうか。いや本部に着く前にぬるくなるしな。
どうしようかと周辺の店を見渡していれば知り合いを見つける。ちょうどいい。休憩に誘ってみるかと思って声をかける。
「あちーよ。アイス買って」
暑さで頭がおかしくなったのかと思った。あちーとか、言うんだ。オレに合わせただけなのもすぐわかったけど、
ちょっとうれしくなる。
「いいけど秒で溶けるだろ。涼しいところで食えれば別だけど」
「ならスタバでフラペチーノ飲もうよ。米屋おごって」
「え~まあいいけど」
「いいんだ」
スタバならいうほど長居しなくて済むからいい。ファミレスのかき氷を提案しようかと思っていたけどそっちの方がいいから乗った。
汗ばんだ首をながめながら、他の男とは、二人でスタバとか行って欲しくねーな、と頭の中に浮かんできて、ついに頭がおかしくなったかもしれないと思った
「米屋が買ってくれないと飲めない! でも新作飲みたかったからめちゃくちゃ感謝するね。ありがとう」
一生懸命感謝を表しているらしいがどうしても滑稽で、ばかじゃねーのって思う。だけど、面白いからなんでもいい。
「オレ以外にたかるなよ」
「たかってないよ。米屋だけ。それはマジ」
「ならいいけど」
これは夏のせい。暑さのせい。にやけてしまいそうになるのをこらえて、値段も知らないスタバの新作を頼む。