一緒のグループに、影浦雅人を好きな子がいた。でもアイツもあんな感じだから、応援する方もなかなか面倒臭いし、進展する気配もなく、昼休み、トランプで負けた人が彼女がいるかと好みの女の子を聞いてくるって話になった。興味がない我々は負けても大したことないし、その子が負けても自分のためなのだから、行けばいい。面白いと思ってちょっと嫌がった友達にもいいじゃん、て言ってやってみたら、負けた。負けると思っていなかったから、結構ショックだった。今度はさっき乗り気じゃなかった友達に、早く行って来いと急かされた。
 一人の時を狙って聞きに行くの、めんどうだしメールとかで聞いちゃえばよくない? と思ったけど、連絡先を知っていることをみんなにはばれたくないし、おとなしく、昼休みにタイミングを見計らって声をかけることにした。
「雅人くん」
「……んだよ」
「雅人くんって彼女いたっけ?」
「いねー」
「だよね」
「そんだけか?」
「あと、どんな子が好きなの? って、聞いて来いって」
 あからさまな溜息をつかれる。わたしだって好きでこんなことを聞いているわけじゃない。負けたから、仕方なく、こうなっている。
「なんだっけ、特殊能力? みたいなので、誰が自分のこと好きだかってわかるの?」
「んな精密なもんじゃねーよ。固まってたら誰からかはわかんねー」
「好意が向いてるのはわかるんだ」
「……」
 中学も一緒じゃないし、クラスも今年初めて同じになった。学校じゃ関わっていないから、きっと誰もわたしがこの人と親しいなんて、知らない。ボーダーの人もたまにお店で会うけど、わたしたちがこんな感じだからか、余計なことは言ってこないし、おかげでグループ内に雅人くんに心を寄せる友達がいても、橋渡しをさせられるようなこともなく済んでいる。
 うちの両親が、かげうらを気に入っていて、よく家族で食べに行っていた。おばさんに、息子が同い年だよって紹介されて、ずっと顔見知りだった。高校生になってボーダーに入ったと聞いてから興味がわいて、ちょっと話すようになったけど、それだけ。同じ学校だけど、お店で話をするだけの間柄。学校では知らない人をつらぬいてるのは、雅人くんが悪目立ちするのに巻き込まれたくないからもあるし、向こうも特に話しかけてこないから、クラスメイトとしての最低限の会話しかしない。
「で、好きなタイプは?」
「こそこそしてねーヤツ」
「そういうのじゃなくて」
「じゃあどう言えば満足だよ」
「かわいらしいーとか、サバサバしてるーとか、やさしいとか、そういうの」
「……」
「教えてくれないと困るんだけど!」
 そうこうしているうちに、飲み物を手にした村上くんたちが戻って来てしまった。もう彼女がいないのはわかったし、友達の元へ帰ろうかな。
「カゲと学校で話してるなんて、珍しいな」
「ちょっと用事あって」
「前にカゲが文句言ってたぞ。学校だと態度が違うって」
「お前、そういうことは言うんじゃねーよ」
 穂刈くんの言葉にぽかんとしてしまった。村上くんは雅人くんをなだめてくれているが、耳が赤いのが目に入ってしまう。その瞬間、全身に力が入って、動けなくなる。
「あ、あの、わたし、戻るね!」
「用事はもういいのか?」
「うん! たぶんへーき!」
 びっくりした。あんな姿、見たことない。というかそもそも勘違いかもしれない。何であの一瞬でそんなことを思ってしまったのか。ないない。ありえない。だってそうじゃん。いつだって、そっけない態度ばっかり、とってた、はず。
 思い返せば、案外そうでもない気がしてきた。面倒臭がって焼いてって頼んだら、お好み焼きを焼いてくれるし、ボーダーのことも興味あるって言ったら話せる範囲でちゃんと教えてくれてたし、考えたら、学校ではもっと素っ気ない態度をとられてる人がいっぱいいたのに、わたしとはそれなりの距離感で接してくれている気がする。
 なんで気付かなかったんだろう。いやでも、気付くわけないじゃん。どうしたらいいんだろうか。そもそも、雅人くんの方だって、わたしが自分に何にも気持ちを向けていないこと、わかってるはずなのに、なんでわたしなんだ。
 正直、雅人くんは愛想がないしお兄さんの方が好きだった。小学生の頃はちょっとした憧れの存在でもあった。昔の話だけれども。雅人くん本人のことをいいとは一度も思ったことがない。けど、兄弟だもんなあ、と考えて、また体温が上がる。友達の好きな人なのに、なんでこうも薄情なんだろう。意識し始めてしまえば、もう止まらない。