「これあんまりおもしろくない」
「はあ? 黙って見てろ」

 どうやら今はいい展開らしい。タイミング悪く話しかけたから怒られた。まだ一時間も経ってない。今日の映画は群を抜いてつまらない。ストーリーよりも映像重視なのはなんとなくわかるけど、ストーリーが面白くないとやっぱり飽きる。
 こうして家でゆっくり会えるのは嬉しい。ボーダーの訓練だなんだで忙しい彼とゆっくりできるのは貴重だし、なるべく彼が疲れない楽しいことを一緒にしたいと思うから、そんなに好きでもないアクション映画を一緒に見ることが多かった。好きな人が好きなものを好きになりたいという健気な気持ちだってあった。でもこの前、ボーダーに所属の他の子が、結構基地で遊んだりひましてることもあるとか、和気あいあいとしてるとか、そんな話をしていて、彼はストイックだしあまり無駄な時間を過ごしたりしていないと思うものの、同世代の女の子もそこそこいるわけで、ずるいとか思ったりする。

「……いいなあ」
「何が?」

 ぼーっと見ていたから話はわからない。でもヒロインが主人公に助けられ、抱き合っているシーンが流れた。このヒロインは主人公が戦う姿を見れるし、手を引いて一緒に逃げようとしている。わたしもこんな風に彼の雄姿を目に焼き付けたいし、手を引いてもらって走ったりしたい。心が満たされな過ぎて、ついにはこんなつまらない映画をうらやましく思うことに自己嫌悪する。でもボーダーはわたしにとって秘密組織ってイメージなくらい彼は何も話せないと教えてくれないから、一生、こんなこと叶わないんだ。何のために鍛えてるんだって起こりたい気持ちもあるけど、街の平和のため、わたしは街の一部でしかない。そう考えて、わたしって彼女のはずなのに、もうしんどい。

「わたしもあんな風に助けられたい」
「そもそも捕まるな」
「せっかく彼氏が鍛えてるんだから、守られたい願望くらいいいじゃん」

 今の言い方、感情が出すぎたかも。やだなあ、彼にはいい彼女って思っていてもらいたいのに、面倒なこと言う女とか思われたくない。
 どうしよう、どう誤魔化そうと考えていたら微妙な距離感だった空間が詰められ腕がのびてきた。どういうことかよくわからなくて、でも嬉しいから知らないふりして身をゆだねた。

「そばにいれば、ちゃんと守るけど、お前には一番に避難して、危ない目には合わず、のほほんと暮らしてて欲しいと思ってる」
「わたしは荒船が戦ってるところ見たい」
「あぶねーだろ。映画は映画。現実は現実」
「そうだけどさー」

 顔を上げれば近くに彼の顔があって、きりっとしててかっこいい。今もまだ流れている映画の主人公よりずっとずっとかっこいい。守って欲しい。けど、心配かけたくないからなるべくわたしは平和に暮らそうとも思う。

「この映画終わったらコンビニ行こう」
「いいけど」
「荒船いい匂いする」
「やめろばか」

 ぎゅっと抱きしめて息を吸った。柔軟剤のかおりだと思うけど、恥ずかしそうにおでこを押し返してくる彼がかわいいからつい言いたくなる。つまんない映画見るくらいならこうやって構って欲しかった。素直に言ったらきっと映画もやめてくれたと思う。でもそれが言えないからわたしであるし、きっとわたしのこういうとこ、彼も嫌いじゃないでしょって勝手に自惚れる。

「映画もういいの?」

 くっついたまま続きを見ようと画面に向き直ったら停止されたテレビ画面。見てなかったから戻したいけどお前どうせ見たくないんだろ、ってそのまま画面を消した。

「コンビニ行くか」
「行く! アイス食べる」

 手を引いてもらって何かから逃げることは叶わないけど、この平和の中を手を繋いでコンビニまで歩ければ、それで十分しあわせだ。