「見てこれ」
 差し出された画面には知らない人のインスタ画像が出ており、子猫がいた。かわいい。たしかに同意だけど、この知らない人の映りこんでいる手は女ではなかろうか。アイコンもなんだか女って感じがする。
「かわいいね」
「子猫って一定期間しか見れないからレアやし、ありがたいわ~」
「そうだねー」
 久しぶりに放課後遊べるとなったけれど、行くところがなくてファミレスでだらだらしている。なんかもっと他に思いつけたらよかったのだけど、期間限定のパフェ食べようなんて言われたら、好きな人とならどこだって楽しいと思って来てしまった。最初の方はよかったけれど、一時間もしたら食べ物はなくなるし話題だって少なくなる。でも帰ろうとは言いたくない。
 猫を求めてインスタを見ることはなんとも思わないし、むしろ動物のかわいい画像を探すのにちょうどいいものだってこともわかってる。だけど、投稿者が女だと思ったら、それは気が気ではなくなる。猫以外の投稿が気になるかもしれないし、コメント欄で親密になっていくかもしれないし、何かが起こる可能性は無限に出てきてしまう。見てなければそんな心配することもないのに、見ないでって言いたいけど言えない。見てるのは猫だけ、のはずだから。
「そろそろ出る?」
「やだ」
 せっかく一緒にいるのに嫌な気分になってしまった自分にいらつく。もっと楽しくしてたかったのに。つまんなそうと思われたくもなかった。
「ほんなら、夕飯食べてええ?」
「え、もう?」
「夜任務やから、早めに食べよかなて」
「そっか」
「別んとこ行く?」
「うーん」
 一緒にご飯を食べたい気持ちもあるけど、今からお母さんに夕飯いらないと連絡したら遅いと怒られるだろうか。
「お好み焼き食べる?」
「え?」
「ボーダーの先輩の店、今の時間なら知り合いもおらんと思うし」
「いいの?」
「うん」
 ボーダーの先輩、なんてあまり話題に出てこないからどきりとした。ボーダーのことを聞こうとするとのらりくらりとかわされて、何も教えてくれない。守秘義務があるのはわかってるけど、女の子ってどのくらいいるの? って些細なことも教えてくれないのだ。答えたくないんだろうけど。
「大阪人の作るお好み焼き楽しみだなあ」
「大阪人は自分で焼かんねん」
「そうなの?」
「たこ焼きしか焼けん」
 二人であーだこーだ言いながら焼いてたべるところを思い浮かべて嬉しくなる。普通に出てきたのを食べるよりも、きっと楽しい。
「機嫌直った?」
「元々悪くないし」
「ネコちゃんは正義やからなあ」
 猫に嫉妬した女だと思われているのはちょっと癪だけど、私の前で知らない女の投稿を見ることをしなくなってくれるのなら、それは最高だと思った。



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