「彼女がいることよりも、ああいう感じが好みなのがショック」
「嘘つけ。強がらなくていいから」
「……あれは絶対笹森くんのタイプじゃない、付き合ってるわけない、なんかの間違い」
「間違いはないでしょ、ふたりでそこにいるのは事実だし」
友達は頬杖をつきながら半笑いでわたしを見ている。面白いからついてきた、以外の理由はないだろうし、帰られても嫌だから態度については諦めるしかない。
学校帰り、どっか寄って帰ろうなんて話しながらファミレスに隣接した通りを歩いていた。窓際のテーブル席に向かい合う男女が目に入り、制服が同じかもと思ってよく見たら、男の子は同じクラスの笹森くんだった。
笹森くんとは中学からの知り合いで、友達と呼ぶにはまだ距離がある。片想い相手であり、意識しすぎて避けてしまうため、友達カテゴリにすらこのままだと一生入れそうにない。
そんな相手が、自分と同じ制服を着た女の人と一緒に、しかも二人でファミレスにいる。相手は同じ学年ではなさそうだ。見たことがない。ちょっと派手めなきれいな人。知らないけど、笹森くんは清純派みたいな子がタイプだと勝手に思っていて、勝手にショックを受けた。
隣でわたしの感情のすり減りを見ていた友達が、とにかく入ろうと提案して、言われるがまま店に入った。笹森くんからは見つからなそうな位置に座り、メニューを開く。頭の中は「どうして」がぐるぐるしていたけど、とりあえず一番大きいパフェでも頼んでしまおうかと言う勢いはあった。
同じクラスであり、わたしの気持ちも知っている友人が、声をかけてこようか? と聴いてくれた。でも彼女だと告げられたら本当に病むから断った。今日から心の準備をしたら、いつか笹森くんから本当のことを聞いてもダメージは少なくなると思う。けど現時点でもかなりダメージを受けた。果たしてわたしは立ち直れるのだろうか。
強がったセリフを友達に吐き出すけど全くの無意味で、負ったキズは大きい。勢いよくピンポンを押して、店員さんを呼ぶ。
「ちょっと、まだ決めてない!」
「ポテトでいいじゃん。わたしパフェ」
「え、まじ?」
店員さんがやってきて注文を聞かれる。ドリンクバーとパフェとポテトを注文した。ドリンクバーに行く時、近くを通ってみようか。いや、気付かれたら気まずいかもしれない。彼女だと紹介されたらそれこそ打ちのめされそうだ。
それでも好奇心に勝てないというか、友人が何も言わずに最短だろうそのルートを選ぶからついていくしかなかった。でもやっぱり後悔しかなくて、帰りは違うルートにした。
「……終わった」
「えーでもあの人が笹森くんと並んで歩くの想像できなくない? むしろ笹森くんの方がなんか相手にされなさそうな」
「名前で呼んでた……」
「え?」
「……ひさとって、わたしも呼んだことないのに」
もう虚無だ。付き合ってるからどうかは置いておいても、わたしより親しいのは確実だ。そして先輩らしき相手は普通にすごいかわいい。わたしに勝ち目などない。笹森くんがあの人を好きだと言うなら、わたしは黙って失恋を受け入れるほかない。
コーラを口に含んでいたらパフェが運ばれてきて、ドリンクバー失敗したなと思ったけどもう気にしない。今日は好きなだけカロリー摂取して、明日からダイエットだ!
大きく口を開けて生クリームとチョコレートを食べる。おいしい。次はアイスも。そう思ってスプーンに乗せて、また口を開ける。
「あ、ぐうぜ、ん……」
なんでこのタイミングなんだろ。今日はやばい日だ。肩に悪霊でも憑いてるのだろうか。
なかば諦めモードでそのままアイスを口に入れる。笹森くんはぎこちない動作で手を上げて、友達に声をかけてる。ちょっと照れてる気がする。気まずいだけかもしれないけれど。それでも、どんな表情だとしても、好きだなあと感じてしまって、泣きたくなる。
「そっちは? 誰と来てるの?」
「ああ、ボーダーの先輩たち」
たち、の言葉に涙が引っ込む。動揺を隠せてるのかはわからないけど、平常を装ってパフェを食べるのを続ける。友達は笹森くんと少し会話をして手を振った。わたしもそれに続いて「またね」と声をかけたら目を合わせて微笑んでくれて、こういうところが、本当に好きだ。
落ち着こうとコーラを飲んで、だからなんでコーラを持ってきたんだとツッコミする。
「待ち合わせだったみたいだね」
「本当だ」
笹森くんの戻ったテーブルを見ると、いかつそうな人とやさしそうな人が増えてる。四人揃えばなんかなんとなく組み合わせとしての違和感が消えた。
「何もなさそうだね、あのふたりは」
「だといいけど」
「もっと積極的に行かなきゃ、可能性はいつまでもゼロだよ」
「それは、そうですね……」
安心してパフェを味わえるようになったけれど、明日からのダイエットは予定通りはじめよう。あの先輩(らしき女の人)とまでは無理でも、きれいになってもっと笹森くんとの距離を縮めたい。わたしもひさとくんて呼びたい。
見つけてわざわざ声をかけてくれるレベルの仲であることが確認できたので、きっと悪霊はいないだろう。今日はそれでよしとした。
220908