お題:そして二人はいつまでも幸せに暮らしました
ハッピーエンド、という言葉に心が踊らなくなったのはいつからだろう。漫画や映画を見るにもハッピーエンドがいいと思っていたのに、そんなこと最近ではもう気にしなくなった。
ベランダでタバコをふかす彼氏の背中を眺めながら、わたしたちはハッピーエンドを迎えられるのかなあなんて考える。
別れが来なければ、そもそも終わりはこない。だからずっと続いて行ったらいいけど、それって死ぬまでかあ、なんて気が重くなったりする。創作だったら、三年後あたりでピークがきた時にでも、はいおしまい、ってなるんだけど、そう簡単にはいかない。でも別れたいとも思ってないし、ずっと幸せを感じながら暮らしたい。
「……なに」
「別にー」
部屋の中に戻ってきた諏訪を引っ張って、Tシャツに顔を埋める。タバコ臭いけど、この中にある本人の臭いを探すのがつい癖になってる。これは何年経っても、やめたくないかも。
「もしもさ、私たちの小説みたいなのがあったとして、途中で終わりですって区切られたとしたら、どんな時かな」
「突然何の話だよ」
「まだ続くけど、盛り上がって、物語が終わるピークはどんな感じかなって思って」
軽い口調で投げかけたのに、諏訪は急に真面目な顔になる。意図は伝わったらしい。でも、そんな真剣になられると、ちょっと緊張する。
「……俺が死ぬか、街がなくなるか、それか全く何も起きないか」
自分で持ちかけた話だけど、バカじゃないの! と叫んで今すぐ終わりにしたくなった。呑気な私と違って、諏訪が見てる世界は大きい。背負ってるものも、覚悟も。そんな所も惹かれたひとつだったのに、一緒にいると忘れる。ちゃんと忘れさせてくれる。そこも、たまらなく好きだ。
「そうだ、アイス買ってある」
空気を察したのか立ち上がって冷蔵庫へと向かう背中に、本当に好きだなあと思って、そればかりで頭がいっぱいになってしまう。
「諏訪、すき」
「はー? 今そんなこと言ってもアイスは変わんねーからな」
「アイスは関係なくて」
「はいはい」
箱のアイスの蓋をビリビリとあける。たしかに安いやつだ。でも、ちょっと高いアイスくらい、自分で買える。そんなところでわざわざ甘えなくてもいい。
「俺も好きだよ」
アイスを持って隣に座ると言われた。今、物語が終わったらもしもこの先不幸なことが起きようとも、間違いなくハッピーエンドだ。
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