お題:ソファーの上で


 ぼーっとテレビを見続けて何時間が経っただろうか。疲労で動きたくないのもあるけど、一緒に夕食を食べる約束をした相手からの連絡も一向にない。また外に出ると思って脱ぎたいタイツも脱げない。もうお店やってないんじゃないかな。テイクアウトでいいなら部屋着に着替えてもいい気がする。けどそれを相談することもできなくて、ただ、無駄に、頭を空にしてテレビを見てしまう。
 約束をふいにされるのはもう慣れた。心配したところで何にもできないから、ただ頭を空にしてやり過ごすしかない。
 玄関の扉が開く音で目が覚めた。いつの間にか寝ていたらしい。意識は戻ってきてるけど、まだ眠くて目を開けられない。テレビは相変わらず声の大きい芸人がしゃべっている。寝るなら着替えておけばよかった、身体がこわばってるのがわかる。
 足音は真っ直ぐわたしの元へやってきて、人の体温に包まれる。こんなこと、できたんだなあ。
「おかえり」
「遅くなってごめん」
「んーん。平気。ねてた」
 やっと目を開けたら袋に入った牛丼が机に並んでる。買ってきてくれたんだ。やっぱりタイツはすぐに脱げばよかった。
「……どうかした?」
「いや、大丈夫」
 悠一は身体を放すとさっといった感じでくちびるを重ねてから、キッチンへ向かった。手を洗う音がする。わたしはと言うとまだ頭がぼーっとしてる。
 今日も無事に帰ってきた。
 街が破壊され、避難指示が出てたあの日の記憶が蘇る。連絡のつかない恋人を、信じて待つしかできない無力な自分のちっぽけさを思い知った。
 ボーダー組織内の死亡者に彼が含まれてないことを知った時、喜んでしまった自分が情けなくなるくらい、しばらく悠一は元気がなくて、わたしもその悲しみに飲み込まれた。
「冷めちゃうよ」
 声にはっとして、振り返った。悠一はそこにいる。大丈夫だと言い聞かせても一体何が大丈夫なのか、わからない。わたしはどんな顔で生活したら正しいのか、今でも、毎日、よくわからない。
 付き合っているけど、果たして本当にわたしの好きと悠一の好きは同じなのだろうか、と時々よぎる。でもこうしてわたしの元に帰ってきてくれるのだから、信じてもいいのだろうか。
 結局数時間前からずっと同じソファーの上から動かないまま、隣には恋人が座り、目の前には晩ご飯が並んだ。ごちゃごちゃ考えるのは、一旦終わり。
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