お題:おやつの時間

「あ、それうまいやつやん」
「……食べる?」
「ええの? 嬉しいわ〜」
 あと一限頑張れば終わるのだけど、その残りが憂鬱だ。おやつでも食べなきゃやる気なんて出ない。そう思って用意していたおかしを出したら隣の席の隠岐くんに見つかった。
「このシリーズいろいろあるやん?」
「うん」
「何が一番すき?」
 このまったりとした関西弁、飲み込まれそうだ。ダメだとわかっているのに、近づいてしまう。
「これ。隠岐くんは?」
「これもうまいよなあ。でもおれはバームロールかなあ」
「あんまり食べたことないな」
「ほんま? ほんなら今度はおれが持ってこよ」
 うれしい。またこの時間がやって来ると考えるだけでドキドキする。隠岐くんはやさしくて安心してでも少しだけやな気持ちになる。
 隠岐くんはこんな感じで誰にでもやさしく笑いかける。私だけにやさしくして欲しいと、願っても叶わないのに願ってしまう。
「二番目は何が好き?」
「二番目—? めっちゃむずいこと聞くやん」
 一番はあっても、それ以下はみんな同じに思うタイプだったら、二番でも十番でもこの人にとっては同じことだ。二番になっても、一番になれる可能性はない。
「二番目は食べ比べてゆっくり考えよ」
「そうだね」
「明日の午後はおらんから、来週かな」
「え?」
「えー? やらんの? 食べ比べ」
「……やる」
 大したことじゃない。定番おやつの食べ比べの約束をしただけだ。連絡先を交換して学校以外の時間に彼と繋がる女の子には多分、到底敵わない。
 それでも、隣の席になってしまって生まれたこの気持ちは、消えてくれたりしない。どうしたら、隠岐くんの一番になれるのだろう。とりあえず、一番好きだと教えてくれたおやつを食べることから始めなくては。
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