お題:虹
しばらく続いた雨を忘れてしまいそうな日差し。こんな日はどこかへ出掛けたくなる。そんなことをぼんやり考えながら今さっき買った缶コーヒーを開ける。今日の任務は午後からだけど、なんとなくいつもの癖でいつもの時間にボーダー本部途中のコンビニにいる。駐車場は熱気を漂わせている。こんな暑さではアイスも買えばよかっただろうか。
「あ、トノじゃん」
「おはよう」
佐鳥が眠そうに手を振る。嵐山隊は今日も忙しいんだろうと思うと同情する。けどあの仕事は佐鳥にはすごく合っているとも思う。
「今日すげー暑い」
「知ってるよ」
コンビニへ入って行く佐鳥を見送って、コーヒーの最後の一口を飲む。こんな日はボーダー本部じゃなくて、外で過ごしていたいとも思うのに、結局ついつい本部へと向かってしまうのだ。
三門の街は今日もいつもと変わらない景色だ。近界民なんてしばらく見ていないだろう住民たちはきっとその存在も記憶から薄れているのだろう。
なんとなく、クラスメイトのことが頭に浮かぶ。三日前の五時間目、うつらうつらしていた時に肩を叩かれて、こっそり窓の外の虹を教えてくれた。通り雨が去って、また日差しが舞い込んできていたころだ。他のクラスメイトはたぶん気が付いていなくて、二人でぼーっと窓の外の虹を見ていた。動くわけでもないただそこに現象があらわれただけの存在だったのに、じっと、薄くなるまで見つめて、終業のチャイムが鳴った。
この街に彼女も存在をしていると思うと、ずっと、近界民のことなんて忘れて平和でいてほしいと思った。
「トノ、おはよう」
「はよ~」
よく知った顔がそろってくる。手に残った空き缶をごみ箱に入れて、出かけるのはまた次の機会にしようと思った。
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