お題:秋の風


 冬が近づいてきたこの季節。カーディガンの袖がどんどんと伸びてしまう。だけれどこのカーディガンを着るのももう卒業までの間だけだ。そう考えることがだんだんと増えてきて、少しだけさびしさもあるけど、これからを考えると楽しみでもある。
 ボーダーの推薦で進路は決定しているものの、共通テストは受験するし受験特有の空気は悪くない。進路が決まっていない人からしたら能天気でいやなやつかもしれないけれど。

「授業どれでもいいのに、何で物理なの?」
「受験ないからこそ難しいこともやろうと思えるんだよ」

 一緒に物理の授業を受けてる神田が苦笑いをしている。ずるいと言いたいんだろう。受験で必要科目であり、かつ、大学でも勉強をする科目は手を抜けない。興味本位で受けてるわたしとは違う。

「まあ勉強に無駄なことはないし」
「賢い人が言うと違うなあ」

 神田は頭がいいから、一見関係のないものも自分の知識と結び付けていろいろなことを見つけたりできるのだろう。そんな世界をわたしも持ってみたかった。いくら勉強しても、追いつける気がしない。
 物理を選んだ理由は、神田がいたから、なんて言うことは絶対にないと思っていたけど、わからなかったら聞けるし、違うクラスの神田と同じ授業を受けられるチャンスだったとか、考えるとふつふつとわいてきてしまう。こんなに好きになるつもりじゃなかった。わたしには、何もできないのに。

「すっかり秋だね」
「落ち葉が落ちる時の加速度と浮力、時間と重さから計算できたりするのかな」
「そんなことよりも受験勉強した方がいいよ」
「それはそうだ」

 窓の外の、すっかり色が変わった葉を眺めて、いかにも頭のいいことを言う。わたしはもっと普通の、きれいだねとか、寒くなってきたねとか、そんな他愛のない話がもっとしたい。なんでもない時間を、一緒に過ごしたいのに。
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