お題:朦朧とする熱
とても久しぶりに熱を出した。まさかこんなに酷くなるとは思っていなくて、ちょっとだるさはあったけどうっかりトリオン体で長時間過ごしてしまったから悪化させた。早く家に帰らなきゃと思って廊下をふらついてたところを無事に保護されて今に至る。が、途中のことはよく覚えてない。声をかけてくれたのが弓場さんだったことは記憶にある。声をかけてくれたのが弓場さんだったから、記憶を手放してしまったとも言える。やさしくて、酷く安心した。
「起きたか」
「……起きました」
「具合はどうだ」
「ぼーっとします」
「どっか痛いとかだるいとか、ねえのか」
「あんまり……」
起きあがろうとしたら、寝てろと押し返される。力が入らなくて枕に逆戻りする。額に乗せられた手のひらは大きい。弓場さんもあったかいと思う。
「熱酷そうだな」
「ここ、どこですか?」
「医務室」
「……帰れるかな」
「無理すんじゃねえ」
弱っているのに怒らないで欲しい。心配してくれるのはわかるんだけど、強く言わないで欲しい。そう訴えるように目を閉じる。体温を下げるために体から水分を出そうとするんだっけ、と思ったら目から涙が落ちた。
「……悪かったよ」
「何がですか」
親指で涙のあとを擦られる。心配してくれてるのはわかる。うれしい。だけど、今はちょっと余裕がない。
「何か飲みたい」
「起きれるか?」
すぐ近くに置かれたペットボトルの蓋を開けてくれる音がする。さっきは押し返したくせに、今度はやさしく手伝ってくれる。このままぎゅっと抱きしめてはくれないだろうか。そうしたらきっと、早く治ると思うんだけどな。
「少しずつにしとけ」
「うん」
カラカラな喉に水分が入り込んで気持ちいい。少しだけ飲んで返せば、また蓋を戻してくれる。いつもこうやって甘やかしてくれたらいいのに。そんな贅沢なことを考えて、にやにやしてしまう。
「風邪うつっちゃいますよ」
「……そん時はそん時だ」
そんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか。望み通り弓場さんはわたしのことを抱き留めてやさしい言葉をくれる。すき。弱った身体に染みる。
「今日は俺も本部に泊まるから、ちゃんと寝てろ」
「様子見に来てくれますか?」
「わかったから」
また頭が枕に戻されて、掛け布団を直してくれる。呆れたようにため息を吐き出してるけど、とてもやさしい顔をしていて、安心した。迷惑かけてごめんなさい。でも、嬉しい。
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