お題:夏が終わる
長いようで短い夏休みはあっという間に終わってしまった。二学期が始まってもまだ暑い日は続くと思っていたのに、今日はどんよりとした天気だ。暑くて嫌だったはずの日差しが恋しい。何もできないままの夏が終わっていく。
「はあ〜」
「なんやそのあからさまなため息」
「夏が終わっちゃう」
「そんな日に焼けた腕してよう言うわ」
これは遊びに行ってできた日焼けではない。塾に通う時、日焼け止めをめんどくさがって時々サボったせいでできた日焼けだ。あんまり目立たなくなってきたと思ってたのに、そう言う痛いところをついてくる。
「水上は焼けてなくていいね」
「ボーダー本部に引きこもりやからな」
「もっと夏っぽいことしたかったなあ」
「夏っぽいってなに?」
「えー、海に行くとか、お祭り行くとか花火するとか」
「お祭り行ったんやないの?」
「途中で雨降って最悪だったの」
「ふーん」
そうだ。だからこんなにも未練があるのかもしれない。せっかく友達と浴衣を着て出掛けたのに、雨が降ってきて帰りはすごい人混みに揉まれ、いい思い出とは言えない。リベンジしようにももうお祭りなんてないし、今年は災難だったと諦めるしかない。
「……花火くらいならできるんちゃう?」
「え?」
数秒黙った後のセリフにしては気が利きすぎていて、聞き返してしまった。まあ、そうかも。市販の手持ち花火ならまだ売ってるところもあるだろう。
「でも今時公園とかで火使っちゃダメでしょ」
「空き地いっぱいあるやん」
「勝手に入っていいの?」
「テント張ってキャンプするわけやないし、ちょっとくらいええやろ」
楽しい計画ににやけてしまう。水上がそう言うならいい気がする。もしも怒られても水上と一緒なら逃げ切れそうだし。
「そしたら今夜! 花火しよう!」
「ええよ」
「他に誰か誘う?」
一緒にお祭りで酷い目にあった友達を誘おうなんて考えていた。高校最後の夏に花火。いいじゃん絶対楽しい。
「急やしみんな忙しいやろ」
「え? そうかな?」
「二人でええよ。ほんなら俺が花火用意するし」
たしかに大人数だと用意する花火の量も増える。言い出しっぺのわたしたちがそのシワ寄せをくらう可能性もあるし、二人でも、いいか。
「二人……」
「復唱すんなや」
なんかちょっとだけ恥ずかしそうに見えたのは気のせいだろうか。水上は、わたしと二人で花火がしたい? そんなアホなことを考えて、顔が熱くなってしまった。
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