お題:居眠り


 無防備な実力派エリートがレアすぎて。起こせないまま二十分。そろそろ起こしてあげた方がいいかもしれない。そう思うのに、この贅沢な時間をいつまでも独り占めしたい。

「……わっ!」
「何それ」

 かわいい寝顔から一変。急に起きるからびっくりしたけど、自分が寝ていたことに驚いたらしい迅が面白くて笑ってしまう。

「いま何時?」
「三時四十五分」
「よかった」

 迅はひと息吐いてから、椅子に背を預ける。早く起こしてあげるべきだったか。

「四時から忍田さんのところ行く約束してて」
「早く起こしてあげればよかったね」
「いや、起きたし平気。焦ったけど」

 また飛び起きた迅を思い出して笑ってしまう。すると迅も一緒に笑う。こんなにも無防備になることがまだあって、嬉しい。

「そろそろ行く?」
「うーん、ぴったりの方がいいからもう少し」

 今度は伸びをする迅を眺めながら、夜はゆっくりきちんと寝ているのか、なんてお節介を言いそうになる。

「忙しそうだよね」
「実力派エリートですから」
「たまにはちゃんと休んだ方がいいよ」
「今、休んでる」

 そう言って勝手に人の飲み物を取る。思っていた味ではなかったのか、顔をしかめる。大人ぶってるけど、まだまだ子どもじゃん。

「苦い」
「甘いの、もっと喉乾くでしょ」

 勝手に人のものをとるからそうなる。また笑ってしまうと迅も苦い顔をやめて口角を上げる。

「夜ご飯、一緒に食べようよ」
「ええー」
「待ってるの嫌?」
「まあいいけど」
「なら六時に待ち合わせ」
「うん。いいよ」

 どうせ未来は見えているのに、一度渋るのはいつものこと。本当は即答したいのだけどいつも振り回されていて悔しいから、素直になってあげない。

「それじゃ、行ってくる」

 立ち上がって私の頭をひと撫でしてから立ち去っていく。もう今日は予定がないから帰ろうと思っていたのになあ。
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