お題:世界が終わる日


「明日死ぬなら何が食べたい?」
「焼肉とラーメンとお寿司と、エクレア。あとは……」
「え? そんなに食うの?」
「だって今日はまだあと二食くらい食べれるし」

 来週、付き合い始めて一年が経つ。別にお祝いとかするほどのことではないけど、どうせならいいものを食べたり楽しいことがしたいと思って、特別な日に食べたいものを聞いてみようと思っただけだ。そう思って聞いたのに、聞き方を間違えたなと思った。

「もっとかわいいもの選べよ」
「かわいい食べ物ってなに? さくらんぼとか?」
「まあそれもだけど、パフェとか、フラペチーノとか」
「でもどうせ明日死ぬなら、ダイエット忘れてカロリー摂りたい!」
「そういう欲かよ」

 そこまで聞いといて安心した。これで焼肉とか連れて行ったらきっとダイエット中なのに嫌がらせかと機嫌を損ねるところだった。別に何かプレゼントを買うとかそんなことをするつもりはなかったけど、食べ物よりもそっちの方がいいのだろうか。

「……出水といれたら、きっと何食べて死んでも悔いなく死ねると思うよ」
「は?」

 赤くなっただろう顔を隠すように彼女と反対の方向を向く。急にこんなんずるいだろ。

「でも死にたくないな。ちゃんとダイエットして公平とプールとか行きたいし」

 何も言い返せない。普通に嬉しすぎる。カッコつけたセリフを言いたいのに何も浮かばない。頭が回らない。

「公平は? 最後の日、何食べたい?」
「……何を食うかより、誰と食うかだろ」
「それってつまり?」

 熱い。彼女はからかうようににやけ顔で見てくる。悔しいけど、結局考えても何も言葉が出てこないから、キスをして話を終わりにした。
 来週のことは、来週になったら彼女と決めればいい。
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