お題:夏の匂い
夏だ。もう気温が三十を超えたらしいとネットニュースで見た。溶けちゃう。無理。そう思いながら、コンビニの前で動けなくなっているのも頭が悪いと思うのだけど、暑さのせいでおかしくなってるから、ちょっとくらい許してほしい。
「暑い溶ける」
「アイス買ってやったろ」
「安いやつじゃん。当真のケチ」
帰り道でたまたま会った当真にたかってガリガリ君を買ってもらった。なのに文句を言うなんて我ながら嫌な奴だけど、本人は気にしていなそうだし、ボーダーでゴロゴロしているくせにお給料をたんまりもらっていること、知っているんだから。
「こんなに暑いと何もやる気でねーな」
「当真がやる気ないのなんていつもじゃん」
「そんなことねーだろ」
無駄口をきいていればアイスはどんどん溶ける。制服に垂れたら困る。そう思って避けながら大きくかじった。
「パンツ見えそう」
「ふざけんなあほ」
「親切に教えてやったんだろ」
隣の当真から見えなくなるようにスカートの裾を引っ張る。こう暑くてはスカートもうっとうしく思うけど、男子のズボンに比べたらマシなんだろうか。
「パンツ見たら百万円とるから」
「だから見てねーって」
ワイシャツの裾をまくり上げて風を入れている当真のパンツはズボンからはみ出て見えている。男子ってなんで人にパンツ見せたいんだろ。
「……その髪型暑くないの? 蒸れそう」
「暑いくらいでやめられるもんじゃねーんだよ」
「ふーん」
当真はとっくにアイスを食べ終えて、一人で買ったコーラを飲んでいる。美味しそう。でも私はその前にこのガリガリ君を食べ終えないと、液体になってしまう。
「アイス食うの遅くね?」
「だって一気にいくと頭痛くなるじゃん」
「それかき氷だろ」
「ガリガリ君もほぼ氷じゃん!」
うわ、また垂れる。そう思って下の角を口に入れて溶けた分だけ吸う。かじるとたぶんバランスを崩して落とす。
「パンツ見えた」
「え?」
ぼとり。あと三口くらいのガリガリ君がアスファルトに落ちた。アリのエサになってしまう。もったいない。
「ひゃくまん円」
「冗談。見えるわけねーし」
「はあ? それならアイス返して!」
「俺が買ったアイスだし」
へらへらしている当真にいつもからかわれているのは自覚がある。ボーダーでは年下の女の子に頭が上がらない癖に。そのストレスを私に向けないで欲しい。でも、なんだかんだ、当真だから許してしまうんだよな。
「ならコーラちょうだい」
飲みかけのコーラを素直に差し出される。受け取ってひとくち飲めば、「うわー間接ちゅー」とまたふざけるのでこぶしで叩いた。
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