お題:くもり空


 もうすぐ梅雨に入るらしい空は、今にも雨が降ってきそうだ。雨が降る前に、家に帰りたい。そんなことを考えながら、廊下の窓から空を見ていた。視線を戻したとき、数メートル先に、さっきの自分と同じように空を見上げる男の子が視界に入った。
 隣のクラスの三輪くんだ。去年同じクラスだったから、なんとなくの知り合いではある。
 三輪くんは、天気が悪いと機嫌がよくない。低気圧に弱いのかなと思っていたけど、あとで米屋くんがほの人と話しているのを聞いて、嫌な思い出があるらしいと知った。
 心配。この気持ちはそんな風に思うことにしていた。三輪くんは頭もよくて、ボーダー隊員の中でもレベルの高いところにいるらしくて、正義感が強くてかっこいい。わたしの知っている三輪くんなんてこの程度のことだ。盗み聞きで得た情報も、いつか本人から聞ける日が来るといい。そう思っても、クラスの替わってしまった今は、距離は開くばかりだ。
 空を見上げていた三輪くんが、前を向いて目が合ってしまった。見つめていたのだから仕方ないのだけど、自然にそらすことができず、数秒、目が合ってしまった。

「……雨、降りそうだな」
「そうだね」

 元クラスメイトのわたしに気を使ってくれたらしい。向こうから話しかけてくれた、それだけで、ちょっと舞い上がってしまいそうだ。

「今日もボーダーがあるの?」
「ああ」
「濡れないようにね。夏服、まだ寒いだろうし」
「ありがとう」

 会話を終えて、三輪くんは教室に戻っていった。こんなぎこちない会話しかできない。もっと知りたいけど、無理だろうな。三輪くんの事情に踏み込む程に仲もよくなければ、そんな勇気もない。でも、いつか。
 来ないかもしれないいつかに、思いを馳せるくらいは、許しておいて欲しい。
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