お題:お化け
市内に空き家はずいぶん増えたと思う。壊れてそのままの家もあれば、きれいなままの家もあって、みんな色々だ。それぞれの事情が溢れている。そんなこの街も、嫌いじゃない。
だけどボーダーからの帰り道に、すごく嫌な気配のする空き家がある。何か見えないものが住んでいるに違いないと思っている。昼間に横を通っても、なんだか嫌な感じがするんだ、夜なんか絶対、気配強いでしょ。なのに今日は一人でこの道を通らなきゃならない。いや、遠回りもできたけど、夜遅い時間に遠回りしてまでその家を避けたとしても、知らない他の家の近くで何か起きたらそっちの方が怖いから、仕方ない歩き慣れた道を進んでいた。
何か気が紛れることを考えたいのに、遠くに見えるやな感じのする家に、歩くのも遅くなってしまう。
「おい」
「わああああ」
「でかい声出すな。近所迷惑だろ」
急に話しかけてきた声の主は知り合いだったけど、ビックリしてそれどころではない。肩で息をする私に呆れ顔を見せるけど、悪いのはそっちだ。
「……何してるの?」
「こっちの台詞だアホ」
本部で今日は見かけてないと思う。と言うか帰りが同じくらいなら一緒に帰ろうと誘ったから今日は見てない。
「荒船はさ、おばけとか信じる?」
「いたら面白いだろうな」
映画オタクなのを忘れていた。きっとゾンビをバシバシ倒してくみたいな映画とか好きでしょ。よく知らないけど。
「あの空き家、変な感じしない?」
「……あれ、佐藤さん家」
「え?」
「すげーじいさんが一人で住んでる」
「ウソ! でもまだそんなに古そうじゃないよ?」
「娘だか息子家族は引っ越したって聞いたけど」
「変な気配めっちゃするよ?」
「勘違いじゃねーの? それか死んだばーさんが居座ってるか」
「え、あの家でおばあさん死んでるの?」
「俺も詳しくねえから知らん」
私が夜道を歩けるかどうかは荒船にかかっているんだと必死に頼んだら、今度聞いておいてくれると言ってくれた。おじいさんが住んでる気配なんてちょっともしなかったけど、一人で倒れてたりしないよね。それも込みで荒船には確認をしてもらうことにしよう。
お化けがおばあさんだと言うならもう怖くない。でも、一人暮らしのおじいさんが、ちょっとだけ心配で、まだまだその家が気になるのはやめられそうになかった。
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