お題:寄り道


 鋼くんと付き合い始めたというものの、ボーダーが忙しいと、帰りはいつも男子でつるんで教室を出ていく。さびしくないと言えばウソだ。休日にデートに行ったこともあるし、連絡は時間が取れればしてくれるし、いつもやさしいし、不満はないけど、ちょっとさびしい。他の子たちみたいな放課後デートとか、してみたい。

「今日、一緒に帰れる?」
「え? ボーダーは?」
「今日は夜まで時間があるんだ」
「じゃあ、どっか寄ったりもできる?」
「うん。どこか行きたいところある?」

 びっくりして固まっていると、鋼くんはいつもよりもにっこり笑ってくれて、わたしの頬もゆるむ。一緒に帰ること、ちょっと諦めていた。だから余計に、うれしい。

「鋼くんは、何したい?」
「え、オレはなんでも……」

 困ったように笑う鋼くんも、かわいくて好き。わたしは鋼くんと寄り道できるのだったら、コンビニだって公園だってなんだっていい。鋼くんも一緒だったらいいなって思ったのだけど、普通に困らせてしまった。鋼くんも行きたいところがあればそこがいいけど、ないならどこがいいだろうか。

「……甘いものでも、食べに行く?」
「いいの?」
「好きでしょ?」

 わたしのことを考えてくれてうれしい。好き。今すぐ飛びつきたい衝動を抑えて、力いっぱい頷いた。学校を出たら、二人になれたら、思う存分触れたい。教室を出ても一緒にいられるって、たったそれだけのことがこんなにうれしいなんてびっくりだけど、それだけ鋼くんのことを好きで、この日をずっと待っていた。

「デートか、二人は」
「こんなやつは放っておけ」
「ほら邪魔せんと行こうや」

 いつもは一緒に帰る男子たちの言葉にも、照れたような顔で手を振る。鋼くんをこれから独り占めできるという実感がわいて、にやにやしてしまう。

「顔ゆるんどるで」

 水上の指摘に、そんなことないと言う気も起きない。だってわたし今めっちゃ幸せだし。顔くらいゆるむし。みんなの背中を見送って、まだ校内だけど、こっそり鋼くんの手を握った。
823字