お題:歯磨き
世間が大型連休だと言われていても、うちの彼氏にそんなものはなく、昨日も朝からあの物騒なボーダー本部とやらに行った。今日がオフだから家にいてもいいぞなんて言葉に甘えたわたしがバカで、先輩に麻雀誘われたから様子見て帰るわなんて気の抜けた電話を寄越したところで帰ればよかった。でもご飯の用意とかしたのに帰るのもアホらしいから、主人のいない部屋でゴロゴロテレビを見たりして時間を潰していた。
ドアの鍵が開く音にびっくりして目が覚めた。電気もテレビもつけっぱなし。まあ電気代払うのわたしじゃないからいいけど。
「ただいま〜」
「おかえり。ずいぶんご機嫌じゃん」
「負けなしで帰ってきたからな。学校休みで他のヤツが捕まったっつーのもあるけど」
「ふーん」
「ほら。悪かったよ。これで機嫌直せ」
机の上に置いたコンビニの袋にはロング缶のビールと酎ハイが頭を出してる。お酒ならもう冷蔵庫にもあるのに。
「甘いのは?」
「あんだろ。なんとかパフェみたいなの」
近寄って袋を覗けばモンブランとコーヒーゼリーをアレンジしたカップパフェが入っている。そうこれ、今これが食べたかった。
「わかってるじゃん」
「悪りぃと思ってっからな」
「タバコ臭い」
急に背中に抱きついてきた諏訪はおじさん臭い。タバコと酒の間に居たのだろうことはわかっていたことだけど、いつも以上に臭い気がする。
「俺だって早く帰りたかったわ」
「それは嬉しいけどくっつくならシャワーしてきて」
「任務のあと浴びた」
「じゃあ歯磨き」
近付く顔を避けてお願いしてみたら、案外素直に受け入れてくれて、それはそれでちょっと物足らない気もしたけど、今日はわたしのわがままを聞いてくれるのかななんて期待をしてしまう。
洗面所でシャカシャカ音を立ててる諏訪に声をかけた。
「これ二つあるけど、諏訪も食べるの?」
「食わねーよ」
どっちも食べていいなら遠慮なく。さっぱりした口に、甘い口付けをしたらどんな顔をするだろう。そう思いながら、ひとつめのデザートを開けた。
824字