お題:晴れた休日
休みの日に天気がいいと気分もいい。最近は気温も上がってきていてなおさら気分がいい。重い服も、たくさんの荷物ももういらない。身軽に出掛けられる喜び。外に出る理由だっていくらでもある。
「何してんだ」
「あ、弓場さん」
すっかり桜が散って、人気のなくなった川べりで、ボーダーの先輩に声をかけられる。何を、と聞かれても、別に何もしてない。陽気がいいから外に出て、きらきらと光る水面を眺めていただけ。時間の無駄遣いだと言われればそうに間違いない、何の意味もない行動。
「別に、何もしてません」
「……悩みでも、あんのか」
「え?」
真面目な顔で、圧がかかってきている。メガネだから、換装体の時のサングラス姿よりは幾分かマシだがそれでも怖い顔をしている。
「まあ、俺に言いにくければ、他のやつでも、聞いてくれるようなやつにだな……」
「悩みなんてないですよ」
「そうか」
心配してくれたことが素直に嬉しくて、にやにやしてしまう。何かいるのか? と一緒に川を覗き込んでくれる弓場さんは、やっぱりやさしいと思う。
「アメンボがいる」
「どこですか?」
「そこ」
アメンボくらいはそりゃいるだろう。サカナだって、探せばいるかもしれない。もっと上流で魚釣りをしている人を見たことあるし。
弓場さんは乗り出した身体を少しだけ引っ込めて、柵に手をついたまま、水面を眺めている。もう川を見ることに飽き始めているわたしは、隣の大男を観察してしまう。
「……たまには、悪くないな」
「悩みなんて、なくなりますよ」
随分とやさしい顔をする。さっきの真面目な怖い顔も、やさしさ故だけど、おだやかなこの顔の方が、ずっとずっと好きだと思った。
683字