お題:はんぶんこ
朝家を出る前、貰い物のどら焼きを視界に入れてしまって、どうしても食べたくてひとつ持って出てきた。潰れないうちに食べようと休み時間に出していたら前の席の水上に「教室でなにくっとんねん」てつっこまれたけど知らんぷりしてひとくちかじった。
「おいしい〜ここの高いんだよね」
「へえ。つぶあん?」
「つぶあん」
「うまそうやなあ」
じっくり味わっていると、水上は興味がありそうに見てくる。教室でどら焼きを食べる生徒なんてあまりいないだろうから水上のつっこみはわかる。でもそんなに羨ましいなら先にそんなこと言わなきゃ少しあげてもよかったなあと思ったりもしてた。
「……あげないよ?」
「まだ何も言ってへんわ」
「じゃあそんなに見ないで」
視線に根負けしそうだ。あげてもいいと思ってたのは、今これをまるまる食べるとお昼にお腹が空かないかもと言う理由もあったから、あげてもいいけど、でも何かちょっと悔しいからあげたくない。
「ひとくち」
「やだ」
「なら半分」
「増えてんじゃん!」
「ええやん別に。減るもんでもないし」
「いや減るでしょ」
「質量は同じやん」
「そう言う話じゃないでしょ普通」
この男に口で勝てる気が全くしない。まあいいかと、包みを全部はがして、半分に分ける。
「ありがとう」
「あとで何か奢ってね」
「ええよ。うわこれうま!」
人の話を聞いてるのか聞いてないのかわからないが、絶対あとで美味しいものを奢ってもらおう。ボーダー隊員てお給料いいみたいだし。
「どら焼きの他には何が好きなん?」
「うーん、みたらしだんご」
「しぶいなあ」
「それ水上には言われたくない」
どら焼きを食べ終わったのに水上は後ろを向いたままだ。水上とはこうして時々話すくらいで特に仲がいいとも言えない、と思っているけど、学校で話をする男子なんて他にいないし、まあ友達と言えなくもない。
「今度だんご持ってくるわ」
「えー、もっといいものでもいいんだよ」
本当に次の日だんごを持ってきた水上と教室で食べてたら、さすがに話題になってしまったけれど、そんなに嫌じゃなかったことを知ってしまった。
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