お題:春の公園
足元にたんぽぽを見つけた。もうそんな季節なのかと、まだ少し寒い気温に白くなる膝を視界に入れながら思った。また乾燥している。クリーム塗らなきゃなあ、なんて考えていれば、「どうかした?」と、声をかけられる。
「たんぽぽ、もう咲いてるんだね」
「本当だ」
感動屋の蔵内くんは愛おしそうにたんぽぽを見つめている。春の訪れを感じているのだろうか。その姿に、心がぽかぽかする。わたしもそういう事でやさしい気持ちになれる人間になりたい。
「寄り道していこう」
近くの公園を思い出して、提案してみる。蔵内くんはやさしく笑って、「いいよ」と答えてくれた。
夕暮れ時の誰もいない公園はなんだかさびしかったけど、春を探すにはちょうどよかった。蔵内くんはよく見る雑草の名前もよく知っていて、教えてくれたけどわたしには覚えきれなかった。
「もうすぐ高校生だね」
「そうだね」
嬉しそうな、悲しそうな返事も仕方がない。街は日常を取り戻しつつあるけれど、つい最近、街は平和ではなくなってしまった。幸いわたしたちは日常に戻れたけれど、戻れなかった人たちだって大勢いる。災いとはそんなもんなのだろうけど、そんなものだと思っていいのかは、子供のわたしにはよくわからない。
「きっと大丈夫」
不安そうにしていたのを見透かしたように、蔵内くんはそう言った。
ふと、そんなことを思い出したのは、似たような季節になったから。桜が咲くにはまだ早くて、梅はもう咲いた頃だったと思う。あの頃とは違う制服から同じように出た膝は、昔よりもカサついている。
蔵内くんはボーダー隊員になって、大学進学後も、三門市にずっといるらしい。高校で生徒会長まで務めたと言うのに、もったいない。でもそれを決めるのは彼氏自身だし、この街を見捨てないでくれることにびっくりした。無限にあっただろう選択肢のひとつに、この街に残ることがあったのが、純粋に嬉しかった。
あの頃とあまり変わらない関係のまま、大人になろうとしていた。このままずっとこんなのなんだろうか。いや、ずっとこのままならいい。きっとこのままではいられない。三門にいるはずなのに、どこか遠いところに行ってしまう。昔仲の良かった人、という過去の人になってしまうだろう。そんなの嫌だ。そう思っていたのに、結局今日まで何もできなかった。
懐かしい春の公園で、たんぽぽを探しながら好きなあの人を待った。
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