お題:本物よりもキレイなコトバ


 嘘をついた。その方が安心させると思ったから。でもそれは間違いだった。そう気付いた時にはもう遅かった。

「……オレ、負担になってないかな?」
「大丈夫だよ!」
「そうやって、ずっと無理させてる気がする」

 何を言えば正解なのかわからない。無理をしていないと言えば嘘だけど、本当のことを言う勇気もない。一体いつからこうなってしまったんだろう。どういえば、わたしの本当の気持ちが伝わるんだろう。うまく言葉が出てこなくて、どうしようもない。

「……」

 何も言わないまま、手をとられる。ゆっくりと見上げると、変わらず困った顔をしてこちらを見てる。ずるい。わたしが出した答えを、ひっくり返されそう。

「わたし……歌川くんのこと、好きだよ」
「本当に?」
「好き、だから、わたしも、歌川くんの負担になりたくない」
「オレの負担なんて、ないよ」

 ぎゅっと、手に力を込められる。その言葉はきっと本心だと思う。歌川くんは何でもできちゃうけど、わたしはどうしても不器用で、どうするのが正解かなんて、きっと一生わからない。
 わたしたちはちゃんと両想いだと思う。でも何でこんなにもうまく行かないのだろうか。どうしたら、何をしたら、街を仲良く歩く男女の様になれるのか、わからない。どうしてこんな風になってしまったんだろう。

「もっと、思ってること、教えて欲しい。オレ、がんばるから」
「がんばらないで。がんばられたら、わたし、もう、どうしていいかわかんなくなる」

 泣きたくないのに泣きそうだ。泣いたらまた歌川くんがわたしに気を遣ってくれて、わたしもまた心配されないように嘘をついて、わたしたちの気持ちは遠く離れて行ってしまう。困らせている自覚はあったけど、今のわたしにはどうにかする力はない。

「ごめん」

 そんなことを聞きたかったわけじゃない。歌川くんにも好きだと言って欲しかった。ただそれだけのはずなのに、どうしても、言えなかった。
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