お題:キスで許して
むくれている彼女にため息を一つ。それを見てまた彼女は機嫌を損ねたようにそっぽをむく。自分が悪いのはわかっているけどそれくらい、と言う気持ちがどうしてもわいてしまう。
「そんなに怒んなよ」
「怒らせたのは誰?」
「俺」
退屈にさせたそっちが悪い、なんて口にしたら、きっとまた怒るのだろう。そしてもう今日は口をきいてくれないかもしれない。さすがにそれは参るなあと思って黙っていたのに、ニヤニヤしていると言う理由で結局また怒られた。
「理不尽」
「誰が悪いの?」
「俺」
彼女は変わらずぷりぷりしていて、機嫌はまだまだ直りそうにない。そりゃ確かに、一緒にいるのに居眠りをしたのは悪いと思っている。でも俺が来たのにいつまでも勉強をやめなかった彼女もそれなりに悪いと思う。
「いつまですねてんの?」
「拗ねてません」
いつもなら腕の中に閉じ込めて気が済むまで文句も聞くのだけれど、こんな場所じゃそうもいかない。頬杖をついたまま、彼女の様子をうかがうも、ここから動く気配もない。せめて隣に移動出来れば。そう思うが安易に近付けばまた機嫌を損ねそうだ。
「やれやれ」
「なんで怒られてるのはそっちなのに、そういう態度なの。ほんと意味わかんない」
机に身を乗り出して、彼女に近付く。とっさにぎゅっと目をつぶる彼女に笑いそうになるが堪えた。そしてキスしようと思ったのもやめた。
「何するの!」
「なーんも」
「……」
反応がかわいいから意地悪したくなる。けどキスしたかったのもウソではない。こんなところ早く立ち去って、二人きりで過ごしたい。
「移動、するだろ」
人の多いラウンジでは気が散る。荷物をまとめる彼女を待ちながらあたりを見回せば、知った顔が早くどこかへ行けと言わんばかりに手で追いやってくる。
「お待たせ」
「おう」
「クレープ食べたい。買って」
「はいはい。何でも好きなもの買ってやるよ」
「だからなんでそっちが偉そうなの!」
こうして怒りながらも手を絡めてくるところがかわいい。だから甘やかしてしまうんだよなあ。きっと彼女も俺に対してそう思ってるような気がする。
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