お題:君の大事にしてるもの
わたしとこの街、どっちが大事って聞いたら、きっと比べるものじゃないって言われてしまう。そんな野暮なことは言いたくない。そう思っているのに、どうしても、思考は止まってくれなくて、何度も喉元までくる言葉を飲み込んだ。
彼は現在学校にも行っていなくて、ボーダーの支部に住み込みで働いていて、そんな環境において、単なる大学生のわたしと付き合っていること自体、奇跡みたいな状態なのに、その奇跡にもう感動できない。
「また、呼び出し?」
「実力派エリートなもんで」
「いっつもそれ」
「今度埋め合わせするから」
うちの玄関先でいつものセリフを吐かれる。最初はそれもかっこいいと思っていたけど、今では憎たらしい。もっと一緒にいたい。世界なんて守らなくていい。わたしだけを守ってくれたら、それでいい。今ではそんなことばかりが頭を埋め尽くしてしまう。
「……いってらっしゃい」
「またすぐ来るよ。そんな顔すんなって」
何を考えているか伝わっているのかはわからない。でも悠一はいつものように優しく笑って口付けをしてくれた。
「いってきます」
わたしはうまく笑えていたのかわからない。しまっていく扉をじっと見つめて、彼の大事なもの、全部壊れてしまえばいいと思ってしまう。この街もボーダーも、みんななくなってしまえばいい。わたしが思っているように、悠一もわたしだけを、大事にしてくれたらいいのに。
数年前、本当に無くなりかけたこの街に、そんな妄想ふっかけられない。口には一生出せないことだ。だからこそ、このフラストレーションはたまる一方。いっそ悠一に嫌われて捨てられた方が、精神安定にいい気もしてしまう。でもできない。悠一に嫌われたらわたしは生きていけない。
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