お題:初めての夜
防衛任務がこんなに遅くなるのは初めてのことだった。高校生がこんな時間に帰宅するのを許しているボーダーもどうなんだ。別に何か起こるとも思っていないけれど、やはり夜の静けさの中帰るのは不安しかない。どこか空いている部屋を借りて泊まってもいいのかもしれないけれど、明日も学校だし何の準備もないし家に帰りたい。
玄関を見ると外が静かで、より一層心細くなる。いやだなあ。誰かいないのだろうかと辺りを見回すけれど、しんと静まり返っていて嫌な感じが込み上げてきた。さすがにボーダー本部内で心霊話が出たことはないのだけれど、もしかしてとも思わなくもない。
ダッシュで帰ろう。お腹も空いているし、早く帰ってご飯を食べて、お風呂に入って早く寝よう。あ、明日の古文の和訳やってないや。
「……おい」
「うああ」
心臓に悪い。本当にやめて欲しい。何なんだ。
「うるせー」
「いや、こんな状況で声かけてくる方が悪いでしょ普通に考えて」
「背中が寂しそうだったからわざわざ声かけてやったんだろ」
カゲは憎まれ口を叩きながら、私の数歩先を歩いている。声をかけられた瞬間は本当に、こんな時に誰って泣きそうになったけれど、カゲで安心した。
「寂しくないけど……心細かった」
「ハイハイ」
頑張って歩かないと置いてかれそうだ。でも走って帰ろうと思っていたから、それを思えばこれくらいはまだマシだ。
「カゲっていつも帰りこれくらいなの?」
「……まあ」
「よく平気だね。お腹とか空かないの?」
「腹減ってんのかよ?」
「え? うん。お腹空いたー」
相変わらず私との会話に興味はなさそうだ。何の生産性もない話題だから別にいいけど。
「……うち寄ってくか?」
「ええ?」
「嫌ならいい」
うちに寄る意味が全然ピンとこなくて変な返事をした。お好み焼き。閃いた時には大きい声を出して「食べる!」と言ってしまって、静かな住宅街に声が響いてしまった。
「うるせー」
「……ごめん。お好み焼き食べる」
落ち込んでみせれば、それを見たカゲは意地が悪そうに笑って、「焼いてやるよ」と言ってくれた。
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