お題:時間を巻き戻せたら


 もしも時間を巻き戻せたのなら、わたしは間違いなく高校一年生に戻って、ボーダーに入隊する。試験に受かるかはわからないけど、でも挑戦する。自分の過去でやり残していることは、きっとたくさんあるけど、後悔していることは、その一つだけだと思う。

「わたしもボーダーだったらなあ」
「お前には無理」
「ひっど! 才能発揮しちゃうかもしれないでしょ!」

 カゲに鼻で笑われた。否定されてムキになってしまう。でも実際、このクラスメイトたちと対等にやりあえるのかと言われれば自信なんてない。だからこそ、今更ボーダーに入りたいとは思っていない。時間を戻せて、高校一年生よりも前に戻れたら、ボーダー隊員になりたい。何故って彼氏がボーダー隊員だから。



「わたしがもっと若ければ、ボーダーに入ったのに」
「若ければ、ってなんだよ」
「今からじゃ遅いでしょ」
「それはそうだな」

 よくは知らないけど、哲次は何でもできる人を目指していて、今は二種類目のポジションを頑張っているらしい。今からわたしがボーダーに入って、そんな人には一生追いつくのなんて無理だ。だったらボーダーなんて入らなくていい。別に街を守ろうなんて思っていない。もっと長く、哲次と一緒に居たいだけだ。

「哲次はもしもわたしがボーダーに居たらって、思ったことある?」
「ある」
「本当に?」
「いたら、心配で身が入らないだろうなって」
「そうなの?」
「できるだけ、安全な場所に居て欲しいだろ普通」

 その一言で、わたしはボーダー隊員じゃなくてよかったと心の底から思った。もしもわたしがボーダー隊員だったら、哲次の彼女にはなれなかったかもしれない。そう考えたら、この選択は間違っていなかったと思う。でも時々、仲間はずれな気持ちになったり、ボーダーのかわいい女の子たちに嫉妬したりしてしまう。

「大事にされてる?」
「十分してんだろ」

 大きな掌が頭の上に置かれてしまって顔があげられない。照れてるだろう顔が見たいのに。けれどわたしの顔も緩み切っていて恥ずかしいから今はこれでいい。
836字