お題:オンライン


 急な提案を断れなかったのは、彼女のわがままをたまにはきいてやってもいいかと言う思いからだと思う。「何だかんだやさしいところあるよね」それは友人の言葉だが、仲良くしてる連中とそれ以外が、同じ扱いな訳がねーと思う。

「もしもし。見えてる?」
「……おう」

 画面越しに見る彼女は寝る準備を済ませたあとなのか、少しラフな髪型とパジャマ姿。夜に電話したことは何度かあったが、いつもこんな格好でいたのだろうか。

「なんかちょっと恥ずかしいね」
 顔を見ているけど、面倒なサイドエフェクトは届かない。まあ確かにちょっといいかもしれない。
 いつもの通話のように、彼女がしたい話をしているのをふーんと聞いていたら、名前を呼ばれる。

「なんだよ」
「画面からいなくなるから。どうしたのかと思って」
「ああ……」

 変な角度でスマホを持っていないとならないのが面倒くさい。置いておけばいいのか。そういえば彼女のカメラはずっと固定されている気がする。

「テレビ電話やだ?」
「別に嫌じゃねーけど」

 顔見れるし、むずがゆいこともないし、いいことだらけだ。けど、こうしていると直接会った方がやはり良いなと、感じてしまう。

「……明日、一緒に帰るか?」
「え? いいの? ボーダーは?」
「あるけど、たまには」
「嬉しい! やったー!」

 同じ学校だけどクラスが違う。放課後はボーダーの連中といるから彼女と一緒に過ごすことは少ない。こんな反応されることは珍しくないのだけど、顔が見えてるのに何の感情も刺さってこない。それになんだかムズムズしてしまう。

「もう遅ぇーし切るぞ」
「うん! また明日。バイバイ」

 満面の笑みで、画面の向こうから手を振る彼女を愛おしいと思う。今は何も刺さってはこないけど、きっといつものように彼女も思ってくれているはずだ。サイドエフェクトなんてなくたって、彼女からの感情は理解しているつもりだ。
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