お題:二人の秘密


 ファミレスで二人向き合って、それぞれメニューを選んでいた。目の前にいる澄晴はまだ気が付いていないけど、すぐ近くの席に隣のクラスの知り合いがいる。見つかりたくない。でも見つかって欲しいって気持ちも少しだけあって、複雑。

「決まった?」
「うーん、もうちょっと」

 メニューで知り合いから顔が隠れるようにしていたら、何かを察した澄晴にメニューを奪われる。たしかにもう見てなかったし、早く注文しろと言う視線はわかるのだけど、気付かれたくないし、どうしたら正解かわからない。

「隠れてるの?」
「……」

 澄晴は別に気にしないと言ったのに、わたしがお願いをして秘密にしてもらっている。わたしみたいな地味な女があの犬飼くん、と付き合ってるなんて学校の女子に知られたら、何を言われるかわからない。でも、彼がわたしを恋人に選んでくれたことの嬉しさはもちろんある。こんな素敵な彼氏がいるのだと、自慢したい気持ちもなくはない。だけど、そんな度胸は恋愛偏差値の低いわたしにはまだなかった。

「そろそろ隠さなくてもいいんじゃない」

 メニューを取り上げられて放り出されていた空いた手を、そっと澄晴が握る。すぐ近くをいつ人が通るかもわからないのに。恥ずかしさで顔に熱がこもる。後から入ってきた隣のクラスの女子たちが、注文を終えてドリンクバーに向かったら、確実に見つかってしまう。

「注文、しよ」

 握られた手を振り払って、店員を呼ぶベルを押す。こんなところでこんな風に暑くなってしまって、恥ずかしい。

「大きいパフェ二人で食べたりしなくていいの?」
「そんなのしないよ」
「なんだ、残念」

 ずっとずっと、澄晴のペースから逃れられない。小さい頃からの友達で、近くにいたから彼を好きになった。多分それは、彼も同じだと思う。だけど、付き合うことになる前に、彼が一般的にかなりモテると言う現実を知ってしまったから、なんだかこそこそしてしまう自分もいて、悔しい。ちゃんと釣り合えているのだろうか。わたしには彼しかいなかったけど、彼は、わたし以外の選択肢もあったはずだと思って、苦しくなる。

「秘密なんて、そろそろ飽きてきたんだけど」

 真面目な顔でそう言う澄晴に、何も返事ができないまま、店員さんが来てしまう。ドキドキと言い続ける心臓を無視しながら、ドリンクバーといちごの小さいパフェを頼んだ。
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