お題:こたつとみかん


 光ちゃんに宿題を見せる約束をしていたから、影浦隊の作戦室に遊びにきたのに、肝心の光ちゃんは不在だった。なんでもわたしが来るからとジュースを買いに行ったらしい。それならば探しに行こうと思ったのに、言われるがままこたつに足を吸い込まれているわたしは意思が弱い。よくボーダー隊員になれたものだ。

「すぐ戻るから待ってるといいよ。あ、みかん食べる?」
「……いただきます」

 北添先輩とは初めて話した。わたしの名前を知っていることもびっくりしたのだけれど、会うなり「カゲは個人ランク戦行ってて、そのまま帰ると思うから安心して」と、わたしが影浦先輩には絶対会いたくないと光ちゃんに言ったことまで筒抜けらしい。まあ、彼女の性格的に、秘密になんてできるとは思えないし、こうしてきちんと約束した影浦先輩とは顔を合わせず済んでいるので文句もないのだが。

「他の作戦室にもこたつってあるんですか?」
「いやあ、うちだけだと思うよ」
「そうなんですね……」

 会話が続かなくて気まずいけど、もらったみかんを黙々とむく。北添先輩はわたしの存在など気にしている様子もない。妙な緊張感を持ているのはわたしだけらしくて、そわそわしてしまう。足を崩そうと動くと、こたつの中で何かにぶつかる。

「ごめんね蹴っちゃった?」
「す、すみません。わたしが無遠慮に動いたから……」
「気にしないで〜。ヒカリちゃんとかもう蹴っても何にも言わないんだから」

 北添先輩は穏やかでやさしい。影浦隊の面々は個性が強い印象だけれど、北添先輩の穏やかさでどうにか中和、はできていないかもしれないけど、多少親しみやすさがある気がする。

「ヒカリちゃん遅いね」
「そう、ですね」

 二人でみかんを食べながら、静かな時が流れる。緊張していたはずなのに、だんだん居心地がいいと思えるから不思議だ。北添先輩の力なのだろうか。

「宿題って、何見せるの?」
「全部です」
「え⁉︎」
「そもそもプリント持っているかも怪しいレベルなので……」

 冬休みの宿題、そんなに量は多くなかったけど、光ちゃんが誰かに見せてもらってでもやろうと思ったことが偉いので、そのことに関して何も言う気はなかった。

「それじゃあゾエさんも手伝わされるやつか〜」
「え、手伝うことあるんですか?」
「うちは問題児だらけだからねえ」

 そこへ勢いよく光ちゃんが帰ってきた。手には三人分のジュース。見せるだけでなく、写すのを手伝うことになるのだろうか。でも北添先輩が一緒なら、少し楽しい気もしている自分もいた。
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