お題:年越し


 防衛任務で遅くなり、今から帰っても途中で新年が来てしまう。そう思ってしばらく本部に残ることにした。秀次たちは年越しの瞬間などどうでもいいと帰った。
 年越しの瞬間て、一年でも結構重要なイベントじゃないだろうか。太刀川隊なら多分人がいるだろうと一人向かう途中、時計を見たら年明けまであと十分を切っていた。

「あれ、米屋どうしたの?」
「そっちこそ。おれはオレは任務終わって太刀川隊行くとこ」
「わたしも行くー」

 柚宇さんいるかな、なんて呟いて隣を歩く。なんでこの時間にこんなところをフラフラしていたのか、聞きたいけど聞けない。それがなんでなのかは、よくわからない。

「あ、手ぶらじゃ悪いかな」
「そんなことないっしょ」
「せめて飲み物くらい持ってこうよ。自販機あるし」

 そう言うなら、と付き添えば自動販売機に千円札を吸わせている。

「オレも半分出すよ」
「え、いいよ。もうお金入れちゃったし! 太刀川さんて何が好きかな?」
「適当に買って選んでもらえばいいんじゃねーの? 太刀川さん酒飲んでるかもしんねーし」
「そっか。柚宇さんはこれ好きだからこれにしよー」

 ピッピとボタンを押すけど取り出そうとしないから、慌ててしゃがむ。炭酸ジュースが三本。適当にとは言ったが適当すぎじゃないだろうか。

「米屋は?」
「コーラ」
「じゃ、出水もコーラ」

 人数より多い飲み物を抱えて立ち上がると、隣の自動販売機の電光掲示板から時刻が流れていく。

「おい。もう年明けるぞ!」
「え? ウソ、ちょっと待って」

 おつりを財布にしまおうとして百円玉を落とす。こんなことをしている間に今年が終わってしまう。
 無理矢理左腕に飲み物を抱えて、自分の足元へ来ていた百円玉を拾う。

「ごめんありがと!」
「おう」

 拾ったまま差し出した手を握られて、ドキドキしてしまう。もし今この瞬間、年が明けていたとしたら、オレは今年一年、この女の事で頭がいっぱいになってしまうなんてバカなことを考えていた。
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