お題:今日はやけに積極的


 彼女はどちらかというと控えめな方だと思う。よくしゃべるしうるさくも思う彼女を控えめだなんて言ったら、きっと他の連中には不思議がられるだろう。だけど、二人きりになると、結構、かなり、控えめだと思う。普段はベラベラとよくしゃべるのに、少しでも手が触れたりすれば、彼女は途端に黙りこくる。恥ずかしそうにしているのを見るのは悪い気はしないし、かわいいとも思う。
 そんな彼女が、今日はやけに積極的だ。無言のまま背中に抱きつかれている。どう反応すべきかわからないで黙って様子をうかがっているのだけれど、時々まとめて吐き出される息が、首をかすめてくすぐったい。

「……どうした?」
「いや、その……」

 ぎゅっと握られた手のひらにそっと自分の手のひらを重ねる。想像以上に熱がこもっている。一体なんだと言うのだ。歯切れの悪い彼女にどうしていいのかわからない。

「なんか」
「おう」
「いつも荒船に任せっぱなしだから」
「……」
「たまには、って、思ったんだけど、嫌?」
「嫌じゃねえけど……これだけ?」

 頭が耳元にあるのに、え、と大きな声を出されてっびっくりする。嫌そうな顔をしてしまったのを見られたのか、真っ赤な顔で距離をとる彼女。せっかくなのだから、このままいい感じになると思っていたのにこれだ。

「また、今度な」
「……うん」

 黙り込んで距離をとる彼女に伝えれば、相変わらず赤い顔で頷いた。彼女にはまだ早かったらしい。また次に期待しようか。
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