お題:冬のベランダ
それなりの防寒をしたつもりだったけど、さらされている頬に冷たい空気が突き刺さる。顔はさすがにどうにもならない。髪の毛を押し付けてみるけど、あまり効果はない。一瞬だけ外に出たことを後悔したけど、もうすぐ帰ってくる人のことを想えば、このくらい、と簡単に自己肯定してしまう。
会えるのは久しぶりな気がした。帰りにうちへ寄っていいか聞かれた時は心が踊った。すぐに帰ってしまうかもしれないし、明日まで一緒にいられるかもしれない。聞いてないからわからないけど、一目でも会える事実だけで、こんなにも嬉しい。
私の住むアパートのベランダからは、ボーダーの基地がよく見える。圧倒的な存在感。周辺が警戒区域とされて人が住んでいないから、夜は静けさに包まれている。そんな地域の真ん中にあるボーダー基地はなんとも異様な光景な気もするのだけど、もうすっかり見慣れてしまった。
近くて遠い、あの建物から彼はやってくる。彼に会う前後はなんとなく、基地を眺めてしまう。私の知らない彼が、あの場所にはいる。理解しているけど、すこし淋しくて、時々かなしい気持ちになる。
「おい!」
「あ、蒼也」
声にびっくりすれば、暗闇から恋人が現れていた。しんみりした気持ちを捨てて、笑顔で手を振る。無事に会えたと、嬉しくなるからこの笑顔はウソじゃない。
「寒いだろ」
「寒いけど、待ってたくて」
静かな夜に、二人の声が響く。早く部屋に上がってきて欲しい。近くにきて欲しい。触れて、今日も無事に会えたことを、感じさせて欲しい。
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